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パナパウから来た少女 〜クレンターニャの秘術〜 #12 パーティでの邂逅

 その夜、ラグラウス邸のホールは華やかな光に包まれていた。  豪華なシャンデリアの下に、さまざまな賓客が集い、上品な笑い声と音楽が響きわたっていた。  幾人かのラグラウス家のメイドが給仕として、賓客達の間を縫うようにして立ち働いていた。  その中に、明るい褐色の肌とまっすぐで艷やかな黒髪をポニーテールにまとめた少女ナシラの姿もあった。 ...

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パナパウから来た少女 〜クレンターニャの秘術〜 #11 エレアの予告

 ある日の午後のことだった。  午前中のルーチンワークを終えたナシラは、ひとり母屋の廊下を歩いていた。  エレアの執務室に呼びつけられたのだ。  普段、エレアはナシラのような新人メイドと直接やりとりをするようなことは皆無である。  家宰であるエレアは全ての使用人の上に立つ管理者であり皆からは畏敬の念を持たれている。  彼女はラグラウス家の...

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パナパウから来た少女 〜クレンターニャの秘術〜 #10 ナシラの順応

 ナシラがラグラウス邸でのメイドの仕事に慣れるまでにさほどの時間かからなかった。  始めのうちこそ不慣れな仕事に小さなミスを繰り返していたものの、新人メイドのやることの基本はローダン地区のアパートメントで身につけたことが多少大がかりになったというだけである。  周りの使用人仲間は皆、ログレスで生活慣れていないナシラに対して寛容で、優し...

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パナパウから来た少女 〜クレンターニャの秘術〜 #9 新しい仕事

 ナシラとイムレがラグラウス邸を訪れた日の翌朝、ふたりはモリーの後について使用人用のダイニングルームへ向かった。  支給された真新しいメイド服に身を包んで廊下を進んでいくふたりの姿は、この屋敷に仕えるメイドとして何の違和感もない。  ふたりが見せる神妙な様子も、新しい職場にやってきて、いくばくか緊張しているようにしか見えはしない。  ...

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パナパウから来た少女 ~クレンターニャの秘術~ #8 エレアの来訪

 ナシラはイムレとのローダンでの暮らしにすっかりと順応しつつあった。  そんなある日、ナシラとイムレがいつものように朝の支度を終えたころ、アパートの入口から軽やかなノックの音が響いた。  ナシラは驚き、イムレを見やる。  朝方からの訪問者に、心当たりはない。  だがイムレは落ち着いた笑みを浮かべ、静かに扉の方へ向かった。  イムレが扉を開...

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パナパウから来た少女 〜クレンターニャの秘術〜 #7 不安と称賛

 アパートに戻ってきたイムレとナシラは、買ってきた食材を粗末なテーブルの上に並べた。  通りの喧騒を離れ、静かな室内に戻ったナシラは、ほっと息をついた。  買い物袋から買ってきた果物や野菜を取り出し、そっと並べていく。  横に立つイムレが、テーブルの上に置かれたタマアを手に取って、微笑んだ。 「今日の買い物、よく頑張ったわね。特に交渉は...

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パナパウから来た少女 〜クレンターニャの秘術〜 #6 ナシラの外出

 アパートを出てローダン地区の通りに足を踏み入れると、ナシラは室内の空気とは異なる雑踏のざわめきに圧倒されるような感覚を覚えた。  路地には商店露店が立ち並び、どの店先にも様々な品々が所狭しと並べられている。  それらの品々の多くは、ログレスの海外領土を始めとして、世界中からもたらされる物産であった。  ラグラウス家の資本は海運事業に...

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パナパウから来た少女 〜クレンターニャの秘術〜 #5 イムレとの生活

 ログレスの下町であるローダン地区は、出稼ぎの労働者や移民たちが多く集まる、活気にあふれた地域だ。  古びた石畳の路地が迷路のように入り組み、どの建物も壁や窓に年季が感じられる。  狭い通りや広場には、周辺国や、世界中に点在する王国の海外領土の言葉や訛りが飛び交い、雑貨や食材などを売る個人商店が所狭しと並び、賑わいに満ちていた。  そ...

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パナパウから来た少女 〜クレンターニャの秘術〜 #4 ナシラの誕生

 あどけない南方人の少女が……南方人の少女そのものの姿に変貌したエヴランが、その褐色の肌をほんの少し紅潮させて、鏡に映った自身の姿を食い入るように見つめる様子を静かに見守っていたエレアは、彼に優しく声をかけた。 「どうやらご満足いただけたようですね……エヴラン様、ご自身の望まれたお姿を手に入れた……お気持ちはいかがですか?」  エヴ...

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パナパウから来た少女 〜クレンターニャの秘術〜 #3 クレンターニャの秘術

 それから数日後の夜。  エヴランはエレアに促され、邸内の一室へと密かに足を踏み入れた。  普段は誰も立ち入ることのない一室だ。  静寂に包まれたその部屋の中は、しんと冷えた空気が張り詰めているように感じられた。  部屋の中央にはテーブルが置かれ、その上には見慣れない意匠が施された箱や小瓶が並べられている。  エレアの求めに応じてエヴラン...

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パナパウから来た少女 〜クレンターニャの秘術〜 #2 エレアとエヴラン

 ラグラウス邸内の一室……自身に与えられた執務室で、エレア・アクシムは控えめな姿勢を保ちながらも、その冷静な目でエヴラン・ラグラウスを見つめていた。  漆黒の髪は肩のあたりでゆるやかにカールし、滑らかに揃えられた前髪の下で、エメラルド色の瞳がまるで相手の心を深く見透かすかのように落ち着き払っていた。  クレンターニャ人特有の塗り込めた...

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パナパウから来た少女 〜クレンターニャの秘術〜 #1 イムレとナシラ

 ひっそりとした朝の空気の中、ラグラウス邸の裏手にある通用口の前に立っていたのは二人の少女だ。  一方の少女は、明るい褐色の肌を持ち、まだ年若く、どこか幼さの残る顔立ちをしていた。  シンプルな紐でポニーテールにまとめたしっとりとした黒髪が、動くたびに軽く揺れた。  髪の毛と同じように深みのある黒い瞳は伏し目がちに下を向いており、その...

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並び咲く純白のユリの花 #9 並び咲く純白のユリの花

9.並び咲く純白のユリの花 「……だから、これはいつでも、あなた自身の意思で止められるということは、覚えておいてね。前に説明した通り、あなたが履いているおむつの下に隠れたモノを抜き取りさえすれば……いつでもあなたは正気を取り戻すことができる」  そう、話し終えると梨花の顔をじっと見つめたまま、しばしの間、奏子はその様子を窺った。  だ...

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並び咲く純白のユリの花 #8 梨花の目覚め

8.梨花の目覚め  どこからか声が聞こえる。  誰かが、何かを、話している。  水を通したよう、くぐもった声。 「……マトリクスは……だから……記憶も……」  なんだろう。  わからない。  意識がはっきりしない。  それは、いつもと同じ。  私はただ聞いているだけ。 「……筋力は……ある程度……できる……」  やがて声はだんだんと遠ざかって...

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並び咲く純白のユリの花 #7 導きの帰結

7.導きの帰結  梨花は、奏子に促されるようにしてタクシーを降りた。 「ほら、ここだよ」  奏子が正面の建物を指し示した。  高い塀に囲まれた、大きな建物。  塀の外には緑地帯が設けられ、植えられた木々が外からの視線を遮っている。  そこは隔離のための施設だった。 「ここって……」  ぼんやりとした頭で梨花は建物を見渡した。  そこがどうい...

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並び咲く純白のユリの花 #6 限界の訪れ

6.限界の訪れ 「梨花ちゃん、おはよー」 「お、おはよ……」  か細い声で挨拶を返す梨花の様子はどこかおかしかった。  体にきゅっと力が入り、まるで何かを我慢しているかのようだ。  奏子の視線を避けるように横にそらした目は潤み、頬はわずかに上気しているようにも見える。 「梨花ちゃん……」  熱に浮かされたような梨花の様子を敏感に感じとっ...

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並び咲く純白のユリの花 #5 奏子への懇願

5.奏子への懇願 「それじゃあ、なるべく夕方には帰ってくるからね」  そう言って、休日だというのに梨花の母は仕事に出かけてしまった。  それ自体はよくあることと言ってもよいが、今の梨花にとって家に自分だけで他人の目が無いということには、大きな問題があった。  母を見送った後、自室に戻った梨花は、すぐに机の引き出しを開け、中からそれの入...

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並び咲く純白のユリの花 #4 依存の始まり

4.依存の始まり  次の日の朝。  梨花が席に着くと、待ち構えていたかのように奏子が近寄ってきた。 「ねっ、ねっ、梨花ちゃん、どうだった?……」  そう尋ねる奏子の目は、期待に満ちて大きく見開いていた。  声の調子もわずかに上ずっている。 「……」  奏子とは対照的に、梨花は無言のまま、目を細めうつむいてしまっていた。  奏子の問いかけに...

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並び咲く純白のユリの花 #3 奇妙な贈り物

3.奇妙な贈り物  梨花が自分の家に戻ってきたのは、日が落ちた後のことだった。 「ただいま」  返事はない。  家には今、誰もいないのだ。  いつもと同じだ。  梨花は、とんとんと階段をあがって自分の部屋に行き、制服から部屋着に着替えた。  鞄を床に置いて、ベッドに腰かける。 「ふぅ」  ため息をつく。  梨花はベッドに横になり、しばらくの...

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並び咲く純白のユリの花 #2 異様な遭遇

2.異様な遭遇 「ね、梨花ちゃん。今日時間ある?」  奏子がそう言ったのはその日の放課後のことだ。 「やっぱ忙しい?」  そう言って奏子は上目遣いで私のことをじっと見つめた。  それは、どうしても自分のお願いを聞いてほしい時に奏子がよく見せる仕草だ。  ひょっとすると奏子は、今朝のやりとりも踏まえて何か私におりいって伝えたいことがあるの...

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並び咲く純白のユリの花 #1 ふたつの違和感

 何もわからなかった。  わたしはどこかに横たわっていた。  とてもよく知っている場所のはずなのに、どこなのか思い出せない。  周りを何人もの人たちが囲んでいる。  わたしの家族。お医者さん。看護師さん。  みんな知っている人たちなのに、誰なのか、わからない。 「……さん、聞こえますか?」 「はい」  呼びかけに答えたのだけれど、きちんと答...

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50年前の特撮ドラマの未公開収録話を発見した話 #1

 その映像を目にすることになったのは、たまたまのことだった。  ふだんあまり付き合いのない友人から連絡があり、彼が携わっていた仕事……倒産した映像制作会社の整理に関連して、倉庫の眠っていた古いビデオテープの引き取りを打診されたのだ。  テープ媒体に記録されているということは、昭和から平成初期に記録されていた映像である可能性が高い。  ...

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クラウストラムの後継者 #16 復活(全文)

 クラウストラムの地下深くに、石牢がある。  普段、ほとんど使われる場所ではない。  だが今、その独房のひとつに、灯りが点っている。  そこにやってきたのはメイド服を身に纏った一人の少女だ。  館に仕える精霊のしもべのひとり、エマである。  髪の毛と同じ色の鳶色の瞳に緊張したような、やや不安げな感情を浮かべ、灯りの点った房の前に立つ。  ...

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クラウストラムの後継者 #16 復活(導入部)

 クラウストラムの地下深くに、石牢がある。  普段、ほとんど使われる場所ではない。  だが今、その独房のひとつに、灯りが点っている。  そこにやってきたのはメイド服を身に纏った一人の少女だ。  館に仕える精霊のしもべのひとり、エマである。  髪の毛と同じ色の鳶色の瞳に緊張したような、やや不安げな感情を浮かべ、灯りの点った房の前に立つ。  ...

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クラウストラムの後継者 #15(後日譚) 門出

 館の廊下を、慎ましやかなメイド服に身を包んだ女性が1人、歩んでいる。  作法をわきまえた者の優雅な足取りであるが、その内にどこか浮き立つような調子が感じられる。  端正なその顔にも、満足げな笑みが浮かんでいる。  そうだ。  アデラは、いたく満足していた。  蜍没の計画にとって、唯一の障害だったのは、最も強力なしもべ、[[rb:旧き根元の精霊 ...

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クラウストラムの後継者 #14 団円

 前庭では、なおも三人の精霊が持ちこたえていた。  だが、それにも限界が近づいていた。  いずれも手傷を負い、疲労と焦燥の色も濃い。   「も、もうダメ~」  あられのようにふりそそぐ光弾をぎりぎりでかわしながら、フェイが情けない声をあげた。  光弾によって地面に穿たれた穴の一つに足を取られ、転倒してしまう。  その至近に、マヤが仁王立ちと...

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クラウストラムの後継者 #13 対峙

 前庭を進んでくる4人の姿を認め、館のテラスに立つ蜍没の口元に安堵の笑みが浮かんだ。  彼女らが共に戻ってくるということは、アデラもすでにこちらの手に落ちた、ということだからだ。  蜍没は両手を広げて4人を迎えた。 「よく戻った。我がしもべ達よ」  アデラがひとり、前に進み出た。 「しもべ?邪法の使い手よ。あなたにはしもべなど一人として...

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クラウストラムの後継者 #12 屈服

「アデラ!」  森の中を館へと急ぐアデラはよく見知ったその声に、歩みを止めた。  正面の木々の合間から姿を現したのは、アデラ以外の館のしもべ達であった。 「あなた達……」  3人が健在であったことにほっとしたように、アデラの険しい表情が緩んだ。 「一体何があったの」 「蜍没の仕業よ」  緊張した面持ちでそう告げたのは、エマだ。  その横で...

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クラウストラムの後継者 #11 帰還

 重厚な内装が施された館の一室。  館主が用いる執務用の机に向かい、一人の男が古びた装丁の魔導書を読み耽っている。  火傷と傷で醜く爛れた顔をしてはいるが、その鋭い眼光には並々ならぬ知性と意志の強さが窺える。  高位の魔法使いらしく威厳を正した衣装に身を包み、胸元には複雑怪奇な文様が一面に彫刻された不可思議な材質の胸飾りを身につけてい...

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クラウストラムの後継者 #10 蹂躙

 エマは丸太小屋にたどり着いて着慣れた自分のメイド服を身につけ、それから館へと急いだ。  やがて自室に戻ったエマは、後ろ手に部屋の扉を閉め、しっかりと鍵を閉める。  ポケットから白く輝く魔玉を取り出すと、そっと机の上に置く。  そこまでしてからエマはやっと緊張を解いてホッと息を吐き出した。   ひとまずはシャワーを浴びて、体にこびりつい...

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