真っ赤なボクシンググローブが何度も唸り、素早く軌跡を残しながら撃ち込まれる。
まるで弾丸のように飛んでいくそれは大砲のようにも思え、凶器だ。
そしてその凶器は人の肉体に何度も着弾している。
弾痕は青く赤黒く変色し、肉が炎症し悲鳴を上げている。
バキュッ!ビシャッ!!ドゴォッ!グジュッ…!
「ぎゃっ…!がっ!ぶぇえ………!」
パンチをもらうたびに悶え、よろめく少女。
そのよろめいた進行方向を妨げるようにさらに撃ち込まれる拳。
青いグローブは持ち主を守らんと持ち上がろうとするが、
震え、力弱く動くことしかできない腕は十分に役目を果たすことなどできなかった。
相手を強かに殴りながらも大きな隙を見逃さない赤いグローブの少女。
青いグローブの合間を縫って大きな右ストレートが顔面に直撃する。
バゴオオオオッッ!!!!
「ッッッッッッ!!!!!!」
鼻と口を塞がれ、激痛に声すら上げられない。
ブシュッ!とグローブと顔の皮膚の間から血が勢いよく漏れ出す。
原形を何とか保っていた鼻もぶよぶよに潰れ、
既に先ほどのラッシュで少女によって吹き飛ばされたマウスピースのせいで歯を守ることもできず無残に砕け散る歯。
赤いグローブをゆっくりと引き抜く黒髪の少女。
よだれやら血の体液が糸を引きながら真下に落下していく。
「ぶ…!ぶぇえ…………ええ………」
肉体も精神も限界に達した金髪の少女。
誰が見ても満身創痍で瀕死なのがわかる惨状だ。
まともな声すらあげれない彼女はまさに「死」が近づいていた。
命の危険を感じながらも薄れ行く意識に逆らえずただフラフラとヤジロベーのようにリング上をのたまっていた。
美しかった彼女の顔は醜くパンパンに腫れ、キレイな白い肌はどす黒く変色してしまっている。
夢遊病患者のように左右に揺れる彼女。
その一方で悠然とステップを踏む黒髪の少女。
息を切らしながらも相手の状態を舐め回すようにじっくりと見ることで自分のパンチの威力を確かめていた。
「(もう、次のパンチでKOかな……。でも今日の私はまだまだ走れそう……。)」
いつもより調子がいい。
いつもより体が火照っている。
いつもよりボクシングが楽しい。
自分の限界はまだここじゃない。でも対戦相手は満身創痍。
「(もっと殴りたい……!)」
幸か不幸かこの場は地下ボクシング。
レフェリーも観客もまともじゃないここでは多くのことが許されてしまう。
その証拠にこれほどの重傷を負った金髪の彼女を前にレフェリーストップもだれも止めない。
少女は舌をぺろりと唇を濡らすと決心した。
もう少しだけ目の前の少女に自分の以前より成長した体力とパンチのサンドバッグになってもらうことを。
さく
2025-03-01 06:38:50 +0000 UTC