その昔、人に焦がれた若い小鳥がおりました。
大空を翔けるのがあまり得意ではなかったものですから、地に足をつけて生を営む人というのは大変魅力的に映ったのです。
小鳥の仲間達は人の世から遠く離れたところに巣を作っていましたが、もっと遠くに移り住もうと思案しています。
なんでも、人の世を統べた者が居るのだとか。
大空から見渡してもまだ地平が見えないこんな広い国を、ここからでは稲粒よりも小さく見えるたったひとりが治めると言うのです。
小鳥の興味は尽きません。
仲間達が眠っているうちに小鳥は巣を抜け出すことにしました。
そんなことをしなければ、連弩で射られてしまうこともなかったでしょう。
羽に傷を負い、満足に飛ぶことすらできなくなるなんて。
でも仕方がありません。
この国のいちばん偉い人が不老不死を求めていたから、仲間達はもっと遠くに逃げようと相談していたのです。
撃ち落とされた小鳥は小さい体を震わせながら、ただ、死にたくない、死にたくないとさえずることしか出来ませんでした。
ところで、その偉い人はたくさんの人に不老不死の手段を探させていました。
小鳥を撃ち落としたのはその中の一人。
「ああ、すまないね。天子様には霊薬を取ってこいと言われたんだけど、
どうも大きな鮫は私のことを嫌いみたいでね。弩の練習をしていたら、きみに当たってしまったよ」
その中でももっとも不真面目でちゃらんぽらんで、ものぐさで、この世で一番おそろしい天子様の勅令すらも放り出してしまう。そんな方士さまでした。
小鳥は幸運でした。
方士さまは小鳥が何なのかを大して調べず、聞かず、小鳥を匿うことにしたのです。
小鳥は方士さまから方術を教わり、まずは姿を人のように見せるところから始めました。
もともと世間知らずの小鳥だったからか、童のような姿にしかなれませんでしたが、小鳥は幸福でありました。
羽はもう使えないけれど、かわりに地を掛ける丈夫な足を手に入れたからです。
「方士さま、どうでしょう、どうでしょう!これでりっぱな人でしょう!」
このささやかな幸福がもうちょっとだけ続けばいい、なんて柄にもなく思ってしまうものです。
しびれを切らした怖い天子様が、方士さまに大きな雷を落とそうとするのは時間の問題でした。
けれど、方士さまは要領がよかったので、雷を落とされる前に海の向こうに逃げることにしました。
「東の彼方、蓬莱山へ! そうでなくとも、天子様の威光がよもや海の果てに届くことはないだろうさ」
もちろん、小鳥もつれて。
いいえ、小鳥以外にも、小さなこども、小さなわらべ。大きなひともたくさんつれて。
方士さまはぶっちゃけ人たらしでした。
小鳥はちょっとだけ賢くなりました。
そうして、この国へとやってきた一行ですが。
その旅路は決して愉快なものではありませんでした。
幾度となく船は嵐に見舞われ、半分以上の人は波に飲まれ、食料が尽き、
そんなときに限って大きな鮫が襲ってくるものですから、これを撃ち倒し、
その生臭い肉をいやいや食べて、寝て、食べて、何回か繰り返してようやく。
そのころの国は、故郷よりは人の営みがささやかなものでしたが、穏やかでありました。
いえ、小さな国同士が小競り合いをしていましたが、未開の地も多く残されていました。
「ようし、この山の中に居を構えよう。お前はしばらくここに居なさい。
人払いの結界を張っておく。この国でもっとも安全な場所を見つけたら、また迎えに来るからね」
方士さまはそう言うと、小鳥を置いてどこかへと去っていきました。
小鳥は律儀に、方術の鍛錬を重ねながらいくどもいくども春を迎えましたが、
数えるのをやめて、童の姿からかなり大人びた姿になって、鍛錬に飽きて何もしなかったりして。
そうして新しい住処もかなり古びて、一緒に住んでいた人たちはとっくに外に出ていって。
外では大きな王朝が出来て、都が出来て、聖徳王が不老不死を求めたりしていたとか、そんなものとは無縁の生活を続けて。
人に化けた妖怪を高名な陰陽師が倒したとか、人が怨霊になって都に雷を落としたとか、そんなものとは無縁で居られたまま。
ようやく、方士さまに見捨てられたのだと気づきました。
「ひどい、ひどい。私はこんなにも待っていたのに。ゆるせない!」
けれど方士さまがおそろしい天子様との約束すらすっぽかす人だというのを知っていますから、あまり怒るに怒れません。
「そうだ、私も外に出てみましょう。この姿ならきっと射たれることもありません。
ええ、羽の隠し方も覚えましたとも!」
もともと、人の世に興味があったからこんなことになっているわけですから、世間知らずの小鳥はやはり外に出てしまいました。
ええ、小鳥はやはり世間知らずです。
天子様が不老不死を求めていたということは知っていても、どうして?ということには思い至らなかったのです。
方士さまが帰ってこなかったという事実は認識していても、どうして?ということには思い至らなかったのです。
最初は小鳥の美貌が人々に受け入れられましたが、それもたかだか数十年。
ちっとも年を取らなかったのですから、物の怪の類であるということはすぐにバレてしまいました。
そうして、今度は足を切られて、石を投げられて、枷に繋がれて。
痛い、痛いと泣いても今度は誰も助けてくれなくて。
苦しくて、苦しくて、たくさん泣きました。
そんな小鳥に、手を差し伸べてくれるひとが居たのです。
☆眠いし飽きたので続きはないよ☆