水守つばきが配信中書いた健全TSF掌編です。
魔逢の森――そこ禁区指定されている地点であり、迂闊に入れる場所では無い。
そうとは知らず入ってしまったが、引き返すにはもう遅い。その場所の事を知ったのは目の前の魔物の口からであったからだ。
「全く、たわけめー♪」
その魔物とは妖狐。この狐の話によれば魔逢の意味とは即ち妖狐に逢うという意味。即ち此処は妖狐の縄張り、この縄張りを拡げない代わりに縄張りを侵さないよう契約をしているということである。そして縄張りに入ったモノは……妖狐が口角を拡げてにんまりと笑う。
「そして入ったモノ、すなわちそなたはわらわが好きにしてもよいということじゃ♪」
慌てて踵を返して走ろうとするも、いつの間にか地面に描かれた魔方陣が光り、がくりと重く何かが身体を上から押さえつけ、身動きを取らせない。そこに歩いて近寄る妖狐は唇をなめずる。
「にしし、話してる間に此処にそなたを捕らえる魔方陣を描いておいたのじゃ♪」
近づいた妖狐は自分の顔をこちらの顔へと近寄らせる。美しい金色の髪、柳眉、されど縦に割けた瞳孔、口の中に隠れる生肉を引きちぎるのに適した獣の尖った牙は人間ではないという事を示していた。ごくりと罪を被った此方に対して下す審判の時。
「んっ♪」
それは濃厚なキス。まるで何かを吸い取るように後頭部を両手で細い手に似合わぬ力でしっかりと妖狐の方に寄せて、口と口をずっと触れさせ固定する。唇と唇の間から細い舌がこちらの舌に絡まる。彼女の唾液と甘いモノがこちらの口内に入ってくる。そしてこちらは唾液と何かを吸い取られているも何もできない。そのまま強制的な接吻を繰り広げられること数分。彼女は手と口を外した。
「んはっ♪そなたの精気ごちそうさまなのじゃ!」
魔方陣は消え、動けるはずなのに身体が動かない。がくがくと何かに震え、奇妙な鼓動が身体に押し寄せてくる。それを見て満足げな顔を見せる狐はこちらから離れない。
「さて、そなたの精気は全て空になってしまったからそなたは普通は死ぬのじゃけどのー?ソレでは面白く無いからの、代わりにわらわの魔力をたーっぷりねじ込んでおいたのじゃ♪」
身体がやがて熱を帯びる。内側から何かがみしりと音を立てて変わり始めるも痛みを感じないという恐怖がこちらを支配する。その音が骨格の変化だという事は身体の肉つきがどんどんと強いものから変化していくことで理解をした。しかしこの変化は止められない。やがて決定的なモノ、大きく、彼女とおそろいの金色の大きな、もっふりとした尻尾が尻の上から飛び出してきた。頭上の耳の骨は融け、頭の上に三角形の獣の毛が生えた耳がにょきりと生える。肌は透き通ったように白く変わり、その肉つきは筋肉的なものから男を魅了するようなむっちりと変化し、瞳はきっと縦に裂け、髪は金色に染まり長く伸びる。何になったかは見たくもなかった。しかし妖狐はどこからか鏡を持ってきて見せる。
「ほぅれ、そなたの魔力に適した身体はどうじゃ?」
鏡に映る姿は――目の前の妖狐とそっくり、いや妖狐に変わり果てた自分の姿であった。いつの間にか低くなった身長と綺麗な素肌はまるで幼女を思わせるよう。喉仏も失せ、ぷにぷにもちもちとした体型に男であったという痕跡は消え失せ、そこにいるのは大きな尻尾と狐耳を生やした狐の幼女であった。口を開け幼女狐が喋る。
「な、何これ!?」
自分の声。自分の声であれどもその幼い声はもはや自分ではなくなっていた。そして聞こえる位置も頭の上のぴこぴこと動作する耳。深い絶望に打ちひしがれる自分に『ご主人様』は告げる。
「そなたに与える罰(ごほうび)、わらわの眷属になってもらったのじゃ♪さて、いこうかの眷属?」
そう言われて口が勝手に開き、重かった身体は独りでに立ち、森の奥を見つめる。
「あ、は、はい……!?」
そのまま森の奥へと突き進む身体はもはや自分のモノではないのであった。