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【一部先行公開】女優、琴羽美鈴の次の役とは?

俳優。それは舞台や映画など様々な業界に携わる演技人。 古今東西名俳優と呼ばれ名高い者は様々だが、ここ日本ではとりわけあげられる名は琴羽美鈴。その人だろう。彼女は高校時代チアリーダーとして甲子園に出場し、その美しさを業界の人間に買われ、卒業後はモデル兼女優として活躍していた。特徴的なのはその茶髪のゆるふわウェーブと見事なプロポーション。女子供に限らず、今や老若男女。彼女を知らないものなどなかなかお目にかかれないだろう。とある日を境に姿をくらまし未だに陰謀めいた噂が絶えない彼女だが、そんな彼女に関するあまり知られていないゴシップについて今回はお話しよう。それでは物語の世界へ、行ってらっしゃい。 蜜蜂が寄ってきそうな甘ったるい華の良い香りが、ここ会議室に充満していた。というのもかの有名な女優琴羽美鈴がその席の一つに座っているからだ。男なら誰もが支配してみたいと思うもの、すべてを彼女は盛っていた。化け物じみていないがほどほどに大きい丸い胸。美しい止めはねはらえのその体。そして甘いキュートな乙女のフェイス。彼女を間近で見るだけで人によっては精通してしまうなんて話があるほど。おまけに中身もしっかりできた子なんだから引っ張りだこになるのも当たり前か。そんな彼女のもとに今回舞い降りた役は、某人気アニメのヒロイン役…のはず。しかし…実際制作前の会議に出席してみるとあら大変。ゲイもののAVの、しかも「タチ役」ではありませんか!ジャンルからして、それに性別すら違うというのに一体何が。勿論彼女はマネージャーにも監督である『忠津星兼城』にも強く抗議した。オファーしていただいた役と違う。それにそもそも私は成人向けはNGだと。しかし彼らも彼らで、あなたにしかできない役。そもそもそんな契約をしていないなどと一歩も譲らない。むしろ彼女の言っていることのほうがおかしいと逆ギレしてくる始末。結局彼女は彼らの押しに負け、出演欄には名前を出さないことを条件に役を引き受けることとしてしまった。その瞬間。先ほどまで会話していたのはまるで嘘のことかのように彼女はその場で身を硬直させ、股からは黄色い液体をじょばじょばと排出するとは知らずに…。 「あらやだ…ここはどこなの…?」 美鈴は目を覚ますと見知らぬ部屋の古びた布団の上に横たわっていた。見る限りカップ麺やらなんやらゴミが散乱しており汚らしい。今すぐにでもここかラ立ち去りたいと思ったとき、彼女は枕の横に一枚の書き置きがあるのを確認した。 『美鈴ちゃんへ これから約1年ほど。君が役にのめり込んでもらうために一人の男として、この街の中で暮らしてもらうよ。大丈夫。ここの人たちは君をもとから男として『認識』しているから決して女とうことがばれることはないから。ましてや今人気の女優、琴羽美鈴なんてね。しかし油断していちゃいけないよ。もし男としてちゃんと演じてもらわないと、彼らは君を『オネェ』だと判断して迫害を受けるから。気を付けてね。あ、一応言っておくけど逃げようとしても決して逃げることはできないから。...それと、ちゃぶ台の上にある箱の中身を空けてみて。今の君に必要な道具全て詰め込んであるから。』 といったようなものであった。彼女は身に何が起きているのかわからないという恐怖でいっぱいいっぱいで、ふと助けを呼ぼうと思い携帯を探したが見当たらない。あるのは古びた黒電話のみだったがダイヤルがなくどうやら誰かがこちら側にかけてきたときにしか使えない欠陥品のようだった。それに、恐ろしいのはそれだけではない。不思議と頭の上が軽く感じたのである。まさかと思い、彼女は恐る恐る部屋の中に置いてあった鏡の中をそっとのぞいてみた。 「うっ…嘘でしょ?こんなこと、こんなこと…。」 彼女は声にならないほど小さな音量でその音をそっと漏らしながら、大事にしてきたお手製の髪の毛に手を触れた。先ほど言った通り彼女の髪型は茶髪のウェーブ。しかし肌触りが違う。もっとざらざらしていてなおかつ角ばっていて...。その感触は正しかった。彼女の髪は綺麗な角刈りにかられ、髪色も真っ黒な、もはや漆黒というにふさわしい髪色へと変わっていた。顔と髪型があまりにもミスマッチすぎて、まるでコントのようだがカツラのようにとれる気配がない。そこで彼女は理解した、自身が意識をなくしている間にすでに手をつけられていたのだと...。美鈴なんてそんなこと信じたくはなかった。受け入れられないからこそ何度も触って確認してしまうのだ。俗にいう頭では理解しつつも...といったところである。 そんな時。電話の着信音が部屋一体に響いた。例の黒電話からだ。美鈴は持ち手に手を触れ電話口をそっと耳に寄せた。 「もしもし...。」 「もしもしじゃないよ!今何時だと思ってるの?もう始まってるんだけど!!!」 「始まってる...?なにがですか。」 彼女は震えるような声で尋ねた。 「バイトに決まってるでしょ!?いいから早く支度済ませてきて!こっちも大変なんだから!!それじゃあっ!」 「あ、ちょっと!」 ガチャッ ツーツー...。 そういい電話口の男は電話をブチっと切ってしまった。 (そうは言っても場所はわからないし...でも多分これにつきあわないと終わりが見えないのよね?...どうすれば。) その時。そういえばと、例の箱の存在を思い出した。きっと中を開けばなにかわかるはずと思い、彼女は薄汚れたちゃぶ台の上に目を向けた。 (これかしら?さっき書いていた箱って。) 台に反し箱の大きさは大きめで、なおかつすべすべとした綺麗なボール製のものであった。端についたセロハンテープを取り、お土産用の菓子折りのように上のほうへと上箱を持ち上げるとそこには以下のものが中には入っていた。 まずは今最も必要なものであるバイト先までの簡易地図。これから生活するために欠かせない衣服・下着などもろもろそれぞれ4着ほど。もちろん全て男性用だ。最低限暮らしていくための予備のお金20万円。そして...股間につける弾丸つきのエピテーゼだった。 (まだ衣服やお金はわかるとして...なにこの悪趣味なもの。これって、おちんちん?いくら男を演じなければいけないからってこんなもの...。) それを見ていると不思議と怒りが彼女の中で渦めいてきた。了承してしまったとはいえ半ば強引に男としてふるまうことを強制され、こんなものまで用意するとは。ふざけるんじゃないよ!そのような考えが彼女の中で次々と蔓延し、思わずそれを部屋の片隅へと投げつけてしまった。 (...ものにあたってる場合じゃないわね。早くいかないと次はなにをされるかわからないわ...。) (...どうかしら?化粧道具なんかもないからごまかすのが大変だけど...やっぱたいして似合ってないわね。) 白いタンクトップに水色のデニムハーフパンツ。もちろん、大きな胸を隠すためのサラシつきだ。 (ぐずぐずしてられない...はやくいかないと。) 美咲は先ほどテーブルの上に置いておいた簡易地図に目を向けた。どうやら今いる部屋というのが『メゾン・ド・ラ・フレール』というアパートの2階で、階段を下りてそのまま右に体を向けそのまままっすぐ進んでいけば、バイト先である『藤野屋』という名のラーメン屋にたどり着くらしい。彼女は靴を足にはめ、それを走らせた。 【それから数十分後】 美鈴は額から汗を一滴・二滴とたらしながらそれらを手で必死にぬぐい、店のドアをそっと開くと店の中は満員であり、席の奥にはイラついた顔でこちらを睨む店員の姿があった。おそらくその人がこの店の店長なのであろう。彼女も心の中ではその理不尽な現状にイラつきをおぼえつつもそれをそっと抑え、申し訳なさそうな顔をしながら彼に詫びをいれた。 「あのぉ...。大変申し訳ございません...遅れてしまって。」 「あったり前よ!今一体何時だと思ってるの!?さ、はやく用意ぃ!」 「きゃぁあっ...!!」 ゴンとまるで石がぶつかるような力強い音が店一体に響いたものの、ほかの下っ端店員もお客さんもそんなのお構いなしにそれぞれの作業を続けた。まるで彼女のことなどさも見えていないように。美鈴は頭を必死に抑え、涙が見えぬよう下を向いた。 「い...。」 「うるさいな!泣いてる暇があんならさっさと着替えなよ!そんくらいできるだろう!??」 「は...はい...。」 彼女が通った跡には涙の足跡ができていたが、それでも彼女を気に留める人はいない。彼女にはもう、どこまでがリアルでどこまでが練習なのかその境界線が見えてこなかった。 (大丈夫かしら...すごい腫れちゃって...たんこぶになっちゃったかも。) 頭にはじ~んとした重たい痛みがいまだ続く。この令和の時代。というより平成の時でさえ、子供をしつけるときに殴るのは児童虐待だとためらわれてきた。まして女なら特にそうだ。それが今や昭和の雰囲気漂う汚らしく古びたラーメン屋なんかで初めてをうけるなんて、彼女は今の今まで考えたことがなかったのだ。げんこつってこんなに痛いんだ。殴られるってこんなに怖いことなんだ。そう思いながら彼女はバイト用の制服に身を包む。 (鈴木羽男...これが私の男としての名前なのね...。) 彼女は神妙な面持ちでネームプレートを見つめた。しかしその時間を遮るかのように、店長の怒号が響く。 「鈴木くん!!さっさと!!」 「は、はい...。」 彼女は覇気のない弱った声で彼の返事に応答し、厨房へと足を運ばせた。 「それじゃあここ、お願いね!」 「はい...。」 なんてことだろう。油ぎっとぎっとの皿や茶碗があまたもの数、そこには積まれている。これを一人で、またコンスタントにやるなんてできるのだろうか。しかしもうここまで行ってしまってはわがままを言ってられない。また...また怒られないために頑張らなきゃ...。そう思いながら美鈴は洗剤をスポンジにしみこませた。


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