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【ゴーディー】第1話 ご先祖さまは魔女【未実装ウマ娘】

※本作では競馬の綺麗事ではない暗部にかなり踏み込みます ※最終ページに 予想と観戦マナーにも役立つ元ネタ解説があります ※私の独自解釈で、交流重賞並びに地方のビッグレースも勝負服着用です ※褐色肌で方言属性のアラブ娘はいかが? Part.1 名門とは言うけれど… 「あの娘は絶対に走りまっせ。一族の星ですわ」 「そりゃあ、あなた達の一族の活躍を知らないではないですが、時代が…」 「うちも同じ事を言われましたわ。せやけど交流戦で勝ちましてん。うちらは先祖代々そうやって一族の名誉を守ってきましたんや」  オオイトレセンの理事長室で、一人のウマ娘が校長に食ってかかっていた。  彼女は代々ウマ娘として輝かしい成績を残してきた名門の出であった。右耳に着けた8色の三日月の髪飾りが彼女の一族に代々受け継がれて来た象徴である。  母親が理事長と激しくやり合うのを聞きながら、その娘は秘書室で秘書と絵を描いて遊んでいた。  ピンクの耳覆いを着け、三筋の白いメッシュの入った栗毛のツインテールはピンクのヘアバンドで結ばれている。  はっとするようなエキゾチックな顔立ちと少しきつい印象を残す目つきをしていた。母親に似て美しく気の強そうな反面、どこか落ち着きと自信がなさげに見えた。  欠点らしい欠点はトレーナーではない秘書には見つけられなかった。少なくとも、素人目には走りそうに見える。 「ゴーディーちゃん。怖がらなくていいからね」  秘書はゴーディーというそのウマ娘を撫でてやりながら、ドアの向こうの論争の決着にそば耳を立てていた。 「どうせ、あかんと言いよる」  暗い表情でそうつぶやいたゴーディーには他のウマ娘と決定的に違う点があった。褐色の肌をしていたのだ。  日焼けしているのではなく、彼女は生まれつきこういう色だ。母親もそうだし、先祖代々そうだ。彼女達褐色の肌を持つ家柄のウマ娘は、アラブと呼ばれる。  名前の通り彼女達の先祖はアラビアから来た。そして、かつては日本にもアラブのウマ娘が沢山居た。  小柄で頑丈で真面目な気質が小さなコースと過密スケジュールで興行するローカルシリーズにマッチしているというので、西日本の地方トレセンにはアラブだけで興行するところも少なくなかった。  だが、アラブは普通のウマ娘に比べるとどうしても遅い。中には普通のウマ娘に混じって互角の勝負をする女傑も居て、ゴーディーの先祖はまさにそうだった。彼女はアラブの名門の末裔なのだ。  だが、アラブは格下という風潮が決定的になるとレースの世界でアラブは淘汰され始めた。それを逆手に取って普通のウマ娘を日焼けさせてアラブだと偽る不正が横行したのもアラブへの悪印象を植え付けた。  段々とアラブのレースを興行するシリーズは無くなり、もはやアラブのウマ娘は日本では殆ど見かける事がない。この秘書さえも入学を願うウマ娘は初めてお目にかかった。 「うちみたいなのを引き受けてくれる言うたら、コウチか、アラオか、精々がフクヤマってところやろ。おかんの居てたナゴヤにもアラブは居てない」 Part.2 勝てばええんや  ゴーディーの母、イケノエメラルドはナゴヤトレセンの出身で、東海地方最強のアラブと称された女傑である。  だが、アラブにまともな檜舞台が用意されていたのは彼女の時代までで、もはやアラブがレースに出ようと思えば他のウマ娘に混じって戦うよりない。現に田舎にはそういうウマ娘が少しは居るらしい。  エメラルドはゴーディーにもっと高いレベルでそれが出来る素質を感じ取っていた。もとよりアラブに冷たいURAは無理でも、かつて自分の一族が大いに盛り上げた南関東ならと、彼女は娘を連れて受験の許可を取り付けに来たのだ。 「とにかく試験を受けさせておくんなはれ!うちの一族のもんがここで散々勝ったんをあんたかて知っとるやろ!ウマ娘は勝てばええんやないんか!?」  あまりに異質なウマ娘を引き受けるのを渋る理事長を前に、エメラルドはテーブルを叩いて啖呵を切った。 「まあ、受けるだけなら…」  理事長はついに折れた。オオイはローカルとは言えURAに次ぐ名門だ。相応に入学試験も厳しい。まさか受かるまいと理事長は踏んだのだ。 「ゴーディー、あんた試験を受けれるで」  秘書室に戻ってくるなり、エメラルドはそう言って代々受け継がれて来た髪飾りを外し、ゴーディーの右耳に着けた。 「アラブはヘボや思うとるアホンダラ連中にかましたるんや。レースやのうて、それがうちらのほんまの家業やで」 「お母ちゃん、そないな事言うとったらレースやのうて面接で落ちるのと違う?」  エメラルドはゴーディーの冷静な回答に思わず口ごもった。ゴーディーはそれを見て秘書と笑いながら今まで触る事も許してもらえなかった髪飾りを撫でて、どこか誇らしげな表情を浮かべた。  ゴーディーはエメラルドの啖呵を裏切らなかった。面接も筆記試験も結果は良好で、理事長を後悔と驚きのないまぜの複雑な気持ちにさせた。  とは言え問題は走りだ。ゴーディーは自信がないではなかったが、それでも周りの白い肌のウマ娘達と並ぶと己の出自へのコンプレックスを感じる。 「わあ、ギャルが居る」 「アラブなんだって」 「へえ、アラブがちゃんと走れるの?」  ゲートから、スタンドから、ゴーディーに奇異の視線が向けられる。だが、ゴーディーは却って闘志を燃やした。  母が、祖母が、曾祖母が、そうやって奇異の視線を走りでねじ伏せて来たのだ。自分にだって出来る。いや、やらねばならない。  ゴーディーはゲートを出た瞬間、これはと思った。アラブは遅いと誰もが言ったし、そう思っていた。だが、思った程の差はない。たとえアラブだとしても、自分はその宿命をはねのけて来た血が流れているのだとゴーディーは初めて実感した。  ゴーディーは褐色の肌を躍動させながら800メートルを2番手で駆け抜けた。その日試験を受けたウマ娘は35人。ゴーディーのタイムは6位タイ。  この試験はそれ程あてにならないが、だとしてもゴーディーはアラブの血筋だ。それが他のウマ娘と互角以上に走った。これには誰もが驚き、理事長としても不合格にするわけにはいかなかった。 Part.3 それは総天然色  かくしてゴーディーはオオイの入学式に出席した。オオイともなれば多少なりともマスコミが来る。ゴーディーは記者の注目を浴びた。 「アラブの一族がローカルのトップシリーズを走る。偉業ですけど、自信はありますか?」 「自信て言われても…まだレースにも出んのにわかりまへんわ」 「その髪飾りは代々伝わってる物だとか?」 「そうです。試験を受けられるて決まった日にお母はんから貰いました」  ゴーディーは名門とは言っても、その実裕福とは言えない下町の娘に過ぎない。そんなまだ子供のゴーディーに記者が群がるのだから大変だ。間違いなくその日の主役はゴーディーだった。  その後新入生はトレセンの一室に通された。そこはかつてURAをも凌ぐ繁栄を見せたオオイトレセンの歴代のスターのパネルやトロフィーが数えきれないほど飾られている。 「ここに飾られるようなウマ娘を目指すんだぞ」  引率した元トレーナーの老警備員は、これから勝負の世界へ身を投じようというウマ娘達にそう言って先人の栄光を見学させた。  オンスロートが居る。ヒカルタカイが居る。ハイセイコーが居る。若いウマ娘達にとってはもはや歴史上の存在となったレジェンドがここには居る。彼女達は皆白黒写真の中で誇らしげに笑っている。  ゴーディーはそのパネルの群れの片隅の、誰も目を留めない一枚に見覚えがあった。  その小柄で細身な鹿毛のウマ娘は、黒い三角帽子にローブという魔女らしき勝負服を身に纏い、赤地に黄色い山形の裏打ちがされたマントを広げて微笑んでいる。何より、三日月の髪飾りをしていた。 「気付いたかい?」  緑の制服の老警備員がゴーディーの肩に手を置いて言った。 「イナリトウザイだ。そりゃあ強かった」  ゴーディーの脳裏に電撃が走った。母の思い出話の中でしか知らない、一族でも最強を誇ったというあのイナリトウザイが目の前に居るのだ。 「綺麗な勝負服や」 「当時のローカルシリーズはURAに追いつけ追い越せでね。ダービーともなれば、立派な勝負服の花盛りさ」  トレーナーの掲げたバナーには『アラブダービー』と書かれている。そう、かつてはアラブにもダービーの檜舞台があったのだ。 「皆『アラブの魔女』って呼んだよ。あのスピードは魔法だったね。アラブの娘は皆一緒に走るのを避けて、それならって東京盃に出たらレコード勝ちだ」  ゴーディーは髪飾りを撫でた。モノクロ写真では色がはっきりしないが、これはまさにそのイナリトウザイの着けていた物なのだ。 「立場上依怙贔屓はしちゃいけないけどね、君には期待しているよ。その髪飾りをもう一度拝めるとは思わなかった」  そう言って老警備員は行ってしまった。だが、ゴーディーはパネルの前から離れようとしなかった。モノクロームの歴史が、今まさに自分の中で総天然色になってよみがえろうとしているのだ。 元ネタ解説 Part.1 8色の三日月:  三日月はムスリムの象徴。8色は枠色 アラブ:  サラブレッドの三大始祖はいずれもアラブ馬やトルコ馬で、それらを競走用に品種改良したのがサラブレッドである。  日本競馬で単にアラブと呼ぶとアングロアラブを指す。アラブ血量25%以上の混血をアングロアラブと呼び、血量がそれ以下だとサラブレッド系種としてサラブレッドに準ずる扱いになる。 小柄で頑丈で真面目:  アラブは事実こうした馬で、使役馬や軍馬として盛んに生産され、その流れで出走回数を求められる地方競馬では大変に重宝された。  園田や福山は21世紀に入るまで長らくアラブ専門の競馬場であり、弱小の競馬場ではアラブのレースがサラブレッドのそれより多い事がままああった。 アラブだと偽る不正:  アラブ競走の全盛期はサラブレッドをアラブと偽る「テンプラ」と呼ばれる不正が横行した。  昭和期は地方競馬も景気と賞金が良く、サラブレッドとしては駄目でもアラブと偽って走らせれば稼げるという構図が存在した。  一説には数割ものアラブがテンプラかその子孫とされ、ゴーディーの曽祖父のスマノダイドウにも根強い疑惑が残る。 殆ど見かける事がない:  競走馬としてのアラブは事実上生産されなくなったが、今でも日本で年に数頭が生産されている。これは中東諸国から贈られたアラブ馬が宮内庁の御料牧場で繁殖している為である。  また、アラブは頑丈で大人しい為、乗馬や神馬として余生を送っている例もままある。 他のウマ娘に混じって戦う:  21世紀にはアラブ競走は地方の小競馬場で行われるだけになり、2009年に福山で行われたのを最後に廃止された。  その後も僅かなアラブがサラブレッドに混じって現役を続け、2013年のレッツゴーカップの引退でアングロアラブの競走馬は日本から居なくなった。 少しは居るらしい:  それでも牧場を支えてくれたアラブの牝系を残そうとしてサラブレッドを交配する生産者は少なからず居る。  血量の関係でアングロアラブではなくサラブレッド系種という扱いになるが、ゴーディーはその最大の成功例である。   アラブに冷たいURA:  中央競馬のアラブは戦後すぐに抽せん馬(JRAが市場から買い上げて馬主に抽選で販売する馬)に限られるようになり、冷遇された。  テンプラの横行を嫌ったという建前になっているが、地方のアラブの方が強かった為に面目を失うのを恐れたという説も根強い。 ほんまの家業:  アラブでありながらサラブレッドを打ち負かしたという名馬は歴史上少なくない。ゴーディーの血統表にもイケノエメラルドを筆頭にそうしたアラブが揃っている。 この試験はそれ程あてにならない:  大井競馬では新馬に能力試験が課されるが、このタイムは本当にあまりあてにならない。  事実、能力試験でゴーディーより上位のタイムを出した5頭の獲得賞金を合計してもゴーディーに及ばない。 Part.3 URAをも凌ぐ繁栄:  これは決して誇張ではなく、ネット投票どころか場外発売さえない時代の地方競馬は現在では想像できないほど人気があり、特に大井は売上でもレベルでも中央を上回る勢いだった。 イナリトウザイ:  1971年生まれのアラブの牝馬。中央デビューで3歳(旧年齢)ながら最優秀アラブのタイトルを受賞。  4歳からはサラブレッドに挑戦し、のちの桜花賞馬タカエノカオリを撃破。  その後賞金もレベルも高かった地方に活躍の場を求め、大井でもまたサラブレッドを打ち破った。  勝負服は異名の通り。マントの裏地は主戦の鉄人・佐々木竹見騎手の勝負服から。 老警備員:  大井で緑の服って言ったら決まってるでしょう?

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