東京。とあるジム。とあることで話題のプロボクサーがいた。
名前を「白石冬馬」。2年になってから注目されてきたニューフェイスのプロボクサーだ。
「よし冬馬!スパーリングするぞ!」
「はい!」
「よし、なら———藤田!相手できるか!」
「っしゃあ!任せてください!」
冬馬の特徴はめげない性格に牧場のバイトで培った筋肉を用いたパワーブロウ。
カーンッ!
Box!
「よし、行くぞー!」
「来いや!」
「シッ!シッ!」
「っと、あたんねーな!」
…だが、それ以外はぱっとしないのが現状。パワーはあれどもスピードがあるわけでもない。また、ボクシング技術も目を見張る、というほどでもない。冬馬は決して「強い」というボクサーというわけではなく。
「このっ!シッ!」
「へへっ!当たんねーぜ!…オラッ!」
ドスゥゥゥゥッ!
「ぐへぁッ!?」
同期ボディーブローがその腹に突き刺さると一転、冬馬はびくりと体が震えてしまう。…と、スパーリングでもこの有様。
「オラオラオラ!ビビってんじゃねえぞ!あ!?」
「うっ…!」
同期たちの覇気のある声に、拳に冬馬はどこか萎縮してしまうと———
「オラァァァァッ!」
バシィッ!バスゥッ!
「うぐああっ!?」
このように、いいように殴られやられてしまうのが現状。では、なぜそんな彼が注目を浴びているかというと———
「うう…く…そぉ…」
冬馬が相手の拳に屈し、崩れ落ちようとしたその時だった!
「おっとお?まだおねんねには早いぜえ?」
ガシッ!
クリンチ!倒れようとする冬馬に同期が組み付く!そして!
「オラ、もーっと鍛えてやるぜ?…腹に力入れろや!」
ドスッ!ドスッ!ドスゥゥッ!
クリンチからの脇腹への連打!
「あううっ!?がはっ!あぐっ!?」
もはや満身創痍、クリンチからもパンチからも逃れられない冬馬の顔が苦痛に歪む。それと同時、綺麗な金髪がなびき、甘い声が広がると———
『すげえ、めっちゃそそるわwやっべ…俺、あれで抜けるわw』
『ちっくしょー、冬馬はこれがあるからなーw俺が冬馬の相手したかったなー』
『噂には聞いてたけど、マジやべえwこれで本人無自覚っつーんだから罪だよなあw』
周りが騒ぎ出す。そう、冬馬の言う『注目』とは『やられる姿の美しさ』。拳で勝つべきはずのボクサーが負けることで輝くというこの皮肉!
「っしゃ!トドメだ!へへへへへ!…いい声で泣くんだなあ!」
ドッゴオオオォォォォッ!
そして、同期の拳が冬馬の腹をまるで体が浮かぶかというほどに突き上げると———!
「あ———あうううッ!?」
冬馬の体がふわりと浮く。それと同時、冬馬の金髪がさあっとなびき、口からマウスピースが飛び上がり———
ドサァァァァァッ!
強烈な一撃に冬馬はリングマットに沈むと、その顔付近にマウスピースがことん!と落ち———それはコロコロと転がり、コトンと倒れた。
「はあ…はあ……!はあ…!」
冬馬はそれを見つめながら、全身に走る痛みに耐えながら大きく息をしながら目を虚ろにさせると———
『やべええええwあいつ、マジでやべえええw』
慌ててスパーリングが止まり、ジム内、そして、その『外』からもその色っぽさに声を上げる。
「う…ううう…」
冬馬は打たれた腹を抱えながら、朦朧とする頭でその声を断片的に聞き———ゆっくりと目を閉じた。ここ最近、冬馬は何をしても負けばかり。めげない性格が折れかかっている、そんな時期だった。
「ふう…今日もダメだったなあ…」
家に帰った僕、白石冬馬は鍋をかき回しながらため息をついた。
パワーあるパンチを見込まれて始めたボクシング。プロにもなれた。だけど…
「…東京に来てプロボクサーにもなって。…でも、前に勝ったのっていつだったっけ?ジムでもプロでも負けばかり。…しかも、負けているほうが皆喜んでるもんなあ…」
僕の頭に今日のスパーリングが駆け巡る。…確かに、僕は強くない。でも皆、何故か僕が撃たれてダウンをすると騒ぎ出す。
「…なんでだろうなあ。僕、何も迷惑かけることしていない…つもりなんだけどなあ。弱いからいけないのかな…はあ…」
…僕は自分の情けなさに溜息をつく。カッコよく勝って、皆に祝福されてみたい。すごいな、強い!って言われてみたい!…だけど、なぜか自分が騒がれている姿は殴っているよりも殴られている姿。
「…皆、僕のことが嫌いなのかなあ…」
僕は呟きながらご飯の支度を始めた。———こういう時、僕がよく食べるのは故郷の料理。負けた時やくじけそうなときほど、こういう故郷の味が身に染みる。野菜、豆腐を切り、鮭に下味をつけ、そして、土鍋を取り出してながら。———僕は北海道、札幌にいた時代を思い出した。
「…懐かしいな…札幌にいた時はラビくんと乗馬サークルで一緒に馬乗ってさ。…懐かしい。あの頃に戻りたい…とは言わないけれど…あーあ、勝ちたいなあ…」
僕がため息をつきながら土鍋に火をかけようとした———その時。
ピンポーン
(ん…誰だろ?宅配便?)
何か最近頼んだっけ。そんなことを思いながら僕はインターホンに出ると———
「はーい!えっと…どちら様ですか?」
カメラに映るのは栗色の髪の、同い年くらいの青年。
(…?どこかで見たことあるような…)
なんて思っていると。
「よ、冬馬」
「えっ…と…?」
「忘れたのか?俺だよ俺!乗馬サークルで一緒だった北兎!」
「ラ、ラビくん!?」
僕は思わず飛び跳ねる!インターホンを鳴らしたのは北海道の学生時代からの親友、ラビくんこと上野北兎!思いがけない親友の再来に僕は思わず声を上げた!
「うわあ、ラビくん、久しぶり!なんでここに!?」
「冬馬の飯が食いたくなった!」
「う…え…あ…え!?」
「もー、お前に会いにきたんだよ!どうだ!びっくりしただろ!」
「うわあ…うわあ…!もう、びっくりしすぎたよ!…とりあえず、あがってあがって!」
僕はそう言うと、すぐさまラビくんを家に中に招き入れる。そして、
「お邪魔しまーす!」
入ってきた親友———あの頃より少しだけ、大人びたように見える北兎に僕は再び感嘆の声を上げた!
「うわー!ラビくん久しぶり!元気だった!?」
「おう!へへ、冬馬の飯が久しぶりに食いたくなってさー!」
「もう、だったら連絡してくれればよかったのに!あ、ご飯石狩鍋だけど大丈夫?」
「もち!食べる!」
思わぬ来訪者に僕はウキウキとキッチンに立つと料理の仕上げにかかる。土鍋に大きめに切って焼いた鮭を入れ、じゃがいも、豆腐、野菜を入れる。そして、僕のコツは味噌の二度入れ。まずはゆっくりと煮立たせせ一回目の味噌を入れ味噌の味そのものを馴染ませる。そして、味噌は煮立つと風味がなくなっちゃうんだけど…
「ここで二度入れ、おい味噌をしちゃえば…!…出来た!」
僕は味噌の香りが引き立つ石狩鍋を完成させるとすぐに器によそい———
「お待たせ、ラビくん!」
「おおー!すげえいいにおい!…いただきまーす!」
僕たちは橋を手に、石狩鍋を食べだした。
「うお、すげえうまい!これだよこれ!…冬馬、料理得意だったもんなあ」
「へへ、嬉しいなあ」
「そういや、あっちはどうなんだ?その…プロボクサーの方は」
その話に。僕はぴたりと箸を止めた。
「あ…っと。聞いちゃまずかったか?」
「ん、大丈夫。…ただ、あんまり成績良くなくって」
「ってことは、また負けたのかあ?」
「…まあね、今日もスパーリングで」
「そうか、クリンチからきれいなボディーもらってたもんな」
「そうなんだよね。料理なら上手に作れるけど、ボクシングは…。やっぱ、僕才能ないのかなあ。皆、僕がダウンすると妙に騒ぐし、嫌われてるのかな」
「あー…」
「皆、僕より強くてさ。スパーリングなんかすると僕、結構ビビっちゃうことも多くって。…長所のパワーも活かせないし、皆にはコテンパンにされちゃうし。時々嫌になるよ」
そんなことを呟きないたその時。
「…ん?」
僕はふと、首をかしげた。
(さっきの会話、なんか変じゃなかった?ってか、ラビくんってボクシングにそんなに詳しかったっけ?ええっと…)
それが何か、僕は頭を動かすと———
「にしても!冬馬の石狩鍋!やっぱサイコーだな!ほら、冬馬も箸止めてねえで食べようぜ!冷めるぞ!」
「あ…そうだね!…うん!今日もいい味付け!…ボクシングも、こんな風にうまくいけばなあ」
僕は箸を動かし、自分の料理に自画自賛。そしてそれと同時、どうしてもよぎる今日のスパーリングを思い出し自己嫌悪。
「はあ…」
僕はアップダウンを繰り返すと———
「おい、冬馬?」
「ッ!だめだだめだ!自分を信じてあげなきゃ!いつかはKO!ジムの皆を見返す!それくらいじゃないと!」
僕はラビくんの心配そうな顔に気づくと、箸をおき、自分の頬をバンッ!と叩き気合を入れなおす!…そして。
「…でもさ」
「?」
「…いっそラビくんが対戦相手だったらなあ、なんて思っちゃった」
「え?」
「ほら、ラビくんとは乗馬サークルでも仲良かったじゃん?僕と一緒でちょっと大人しい感じあるしさ。…ラビくんが対戦相手なら、僕もビビらないんだろうなあ」
僕はふと、思ったことを口にすると。
「………」
「ラビくん?」
「ん。なんでもない」
ラビくんはちょっと、戸惑ったのかな。何とも言えない、不思議そうな顔をする。
(…そうだよね、ラビくんはプロボクサーじゃないし。僕のMOSOを押し付けちゃったかな?)
僕は話題を変えようと、にっと笑みを浮かべた。
「それよりもさ!」
「…ん?」
「ラビくんは今何やってるの?」
「何…って…」
「ほら、いつも教えてくれないからさ!今日こそ教えてよ!僕はプロボクサー!はい、ラビくんはー?」
「普通の生活」
「もー!普通ってなんだよー!いつもそうやってはぐらかしてー!教えてよー!」
「へへっ!秘密秘密ー!」
ラビくんはそういうと、ケタケタと笑い声をあげ、僕もまた、それに合わせて笑った。…負けが続いて以来、ちょっとふさぎ込みがちだった最近。本当に、久しぶりに笑った気がする。僕は思わず、ポロリと呟いた。
「本当…ラビくんが…対戦相手だったらなあ…」
そして、それから数日が立ち———いつものジム。
「えええええええええぇぇぇぇぇ!?」
「冬馬。うるさいぞ」
「だ、だって!今度の相手は上野北兎って…ほんとなんですかあ!?」
僕は突然告げられた次戦の対戦相手に大きな声を上げた。それも当然、相手はついこの前一緒に石狩鍋を食べた僕の親友こと「上野北兎」、つまりラビくん!
「嘘をついてどうする。向こうはデビュー戦、どうしても冬馬、お前と戦いたいそうだ。…知り合いか?」
「えっと…はい、知り合いです!中学の同級生で…」
「ほう、なら相手のことはお前の方が知ってるか?…どんなやつだ?」
「どんなやつ…といっても、乗馬サークルの親友で」
「お前、牧場だけじゃなくて乗馬サークルもやってたのか。どうりで下半身が強い」
「あ、はい!でも…ボクシングなんてやるような感じじゃなくて」
「と、いうと?」
「いつもおどおどしているっていうかー…いじめられっ子って感じなんです。僕も気が弱い方だから、結構仲が良かったんですけど…この前もちょうど、一緒にご飯食べて。でも、あのラビくんがボクサー…?」
「なるほど、なら相手のボクサーとしての実力は未知数、というわけか」
「はい、ボクシングやっているだなんて一度も聞いたことなくて…この前も教えてくれませんでした」
「そうか。なら、なおのこと先輩プロボクサーとして叩きのめしてやらんとな」
会長の声に僕は思わずドクンと胸が跳ね上がった。
(あのラビくんが僕を指名してのボクシング…そのラビくんを叩きのめす…)
確かに、ラビくんが対戦相手だったらな、とは言った。だけど、まさかそのラビくんがボクサーになっていて、プロで僕と試合だなんて!
(あのラビくんを殴る…)
…僕は少しだけ戸惑った。仮にも親友だ。でも、僕と同じ殴ることの専門家、プロボクサー。なら、遠慮することはできない。
「…やります、僕!ぜひ、ラビくん…じゃなかった、上野北兎との試合をやらせてください!」
僕は決意を固め、そう言うと拳をぎゅっと握りしめた。そうだ。僕だってラビくんと試合をしたい、そう言った!なら、全力で立ち向かわないとね!
「よーし!このパンチで沈めてやりますよー!試合で容赦はしないからね!」
僕は気合を入れた。もうめそめそなんてしてられない!全力を出して、ラビくん相手に今度こそ勝ち星を挙げる!
(ラビくんには負けない!先輩のプロボクサーの強さを見せてやるぞー!…あ、でもラビくんは何で、僕にプロボクサーになったって言わなかったんだろう?うーん…?)
レディィィィィィィィィィィスッ!エェェェェェェェンドッ!ジェントルメェェェェェェェェェンッ!
マイクコールが響く中、僕は挑戦を受けた僕は赤コーナーからリングイン。そこにいたのは
「よ、冬馬!挑戦、受けてくれてあんがとな!」
「ラビくん!…びっくりしたよ、まさか、ラビくんもボクサーになっていただなんて…!」
「まあな!ずっと内緒にしてたから…さ」
「なんでまた…」
「色々。…でもまあ、冬馬が俺と試合してみたいって言ってたからさ。…チャンスだなって」
「ん?チャン…ス?」
「あのさ。…不思議に思わなかった?」
「え?」
「なんで俺が、冬馬がスパーリングでダウンしたのか、知ってること!」
「…そう…いえば?」
「それに、なぜボディーブローでダウンしたのか、知っているのか」
「ラビくん…?」
「へへ、俺さ、今すげえテンション高いんだ!ほら、冬馬!全力で来いよ!それとも…また負けるか?」
ラビくんはそう言いながらくいくいっと挑発をすると———
(そうだ!ラビくんには負けられない!先輩プロボクサーの強さってやつを教えるんだ!)
僕はぐっと拳を握りしめた!
「へへ、先輩は僕だよ!ラビくんに教えてあげる!プロの世界の厳しさってやつをね!」
カーンッ!
『Box!』
試合が始まる!
(ラビくんはどう攻めて来るかな…)
僕はラビくんを睨みつけながらジャブを繰り出し、距離を測る。
(踏み込んで…いいのかな。ラビくんの様子を伺いたいけど…!)
そんな僕の気持ちをわかっているのか、ラビくんもまた、ジャブを出して距離を測るばかりで一向に攻めてこない。
(なら…!)
僕は唾をごくりと飲み込むと、すうっと息を吸い込み———
「ふっ!」
タンッ!———バシィィィッ!
「———ッ!」
ラビくんのグローブにストレートを一発!グローブとグローブがぶつかり合う子気味良い音がすると、ラビくんは慌ててバックステップを踏んだ!
(…よし!)
僕の特徴はパワーブロウ!予想以上のパワーだったんだろうな!僕は逃げるラビくんをさらに追い詰めるようにステップイン!距離を詰めると———!
「シッ!」
バスゥッ!バスゥッ!バシィッ!
「ッ!」
間髪入れず!腰の入った強いパンチをラビくんに打ち当てる!
バシィッ!バシィッ!バスゥッ!
単発気味だけどパワーあるパンチ!僕は焦って逃げるラビくんのガードにガンガンとパンチを浴びせる!そして!
「シィッ!」
バスゥゥッ!
僕のパンチがラビくんのブロックを叩き———
トンッ!
「しまっ…!」
ラビくんがコーナーを背負った、その瞬間!
「そこだ!シィッ!」
バキィィィィィィィッ!
僕の右ストレートはラビくんの顔面を完全に捕らえる!
「うわああっ!?」
拳に走る久々の感触!それとともにラビくんは足を滑らせると———
ドサァァァッ!
『Down!』
「くっ…!」
「ッ!よしッ!やったー!」
ラビくんはあえなく、リングに沈み———僕は大きくガッツポーズをとった!
(ダウン…!ダウンだ…!僕のパンチがラビくんを沈めた!)
———プロでも僕のボクシングが通じた、そう思った瞬間だった。が、
「くうっ…!」
ラビくんは直撃を受けながらも、歯を食いしばって立ち上がる。———カウント8。
「へへっ…!ラビくん、僕に勝てると思った…!」
「…ッ!」
「僕だってプロボクサー!ラビくんよりは先輩なんだ!僕のプロボクサーとしての強さ…!叩き込んであげる!」
僕は再びファイティングポーズをとると、手負いのラビくんに向かう!
———この勝負、絶対に勝つ!ラビくんに僕の強さ、認めさせるんだ!
「シッシッ!シッ!」
バスゥッ!バスゥッ!バシィッ!
それから、僕はラビくんに容赦なく大ぶりのパンチで責め立てた!
「くぅ…ッ!」
ラビくんは、僕のパンチを上手くさばき切れないようだった。なんとか避け、何とかガードをしているものの防戦一方。攻め手に転じることができず———
「このおっ!」
ドスゥゥゥゥゥゥッ!
「ご…ぽっ…!?」
僕はひたすらにラビくんを追い詰め、追い立て———僕の青いグローブがラビくんの腹へを突き上げると、ラビくんは体をくの字に曲げる!そして、口から唾を吐き散らし、そのマウスピースが顔をのぞかせると———
(チャンス!)
「ラビくん、もらったッ!」
僕は無防備になったラビくんの顔面に大ぶりのストレート!フィニッシュの一撃がラビくんの鼻っ柱を叩き潰そうとした、その時!
カーンッ!
———ゴングが鳴り響き、僕は拳をピタッと止めた。
「はあ…はあ……はあ…」
ラビくんは、間一髪、ゴングに救われたことを悟ると悔しそうにこちらをにらみつける。
「僕のが先輩なんだ!次のラウンドで沈めるからな、ラビくん!」
僕もまた、肩で息をしながらもにっと笑みを浮かべるとラビくんにKO宣言!自らのコーナーへと戻ると———僕は椅子にドカッと座り、大きく息をした。
———久しぶりの感覚だった。イメージ通りの試合運び。拳に残るヒットした感触。ラビくんは僕のパンチがさばき切れないのか、攻勢に出れない。
(最近、負け続きですっかりと自信も無くしていたけれど…)
僕だって、まだまだやれる!いける!
僕は自信を取り戻すとぎゅっと拳を握りこんだ!そして!
カーンッ!
第2ラウンド!僕はラビくんを仕留めるべく、リング中央へと向かうと———
「ラビくん…覚悟ッ!」
ダンッ!
開幕早々、大きく踏み込みインファイト!
「ッ!?」
開幕からの勝負にラビくんは驚き、反応が遅れると!
「———シッ!」
僕は拳を一閃!ラビくんに向かい強烈なストレートを放った!そして!
バシィィィィィィッ!
僕のグローブがラビくんの顔面を叩き潰す!
「がはぁっ…!?」
ラビくんはもろにストレートを受けると、その体がぐらりと揺れ。
(よし!やった!僕の勝ちだ…ッ!)
僕が勝利を確信した———その時だった!
「く…うぅぅぅっ!」
ダンッ!
「…え!?」
ラビくんは後ろ足で倒れ行く体を力強く支える!ダウンを奪ったはずなのに、まさか、という想い!そして!
「おおおおおおおおおっ!」
バシィィィィッ!
「———ッ!」
ラビくんのストレートが僕の顔面に突き刺さる!
「くうっ…!」
不意を打たれた僕は、なんとか足を踏ん張らせるも———
「まだまだぁっ!」
「っ!?」
気迫の迫ったラビくんが迫る!———瞬間。
『オラオラオラァッ!』
(…あ……)
あの時の。ジムの同期とのスパーリング———散々にビビってしまった風景が僕の頭を駆け巡る!———瞬間!
「このおおおおおッ!」
バスゥゥゥゥッ!
「…がっ!?」
ラビくんのフックが僕の顔を弾き飛ばす!———とはいえ、一撃は軽い。これならまだ、僕がそう思ったその時!
「っしゃ!ラビットロール!行くぜ、冬馬!」
バスゥ!バシバシィッ!バキィィイッ!
まさに一気呵成!ラビくんのラビットロール———デンプシーロールのような鋭いフックの連打が無防備な僕を容赦なく打ち付ける!
(ダ…メだ…!これ以上は…!)
ラビットロールに打たれながら、僕は必死にガードを固めるも。
「シィッ!」
バッキィィィィィィィッ!
「ぐっ!?」
「うおおおおっ!」
ドスゥゥゥゥッ!
「あ…がっ…!?」
上下に打ち分けるラビットロールは僕のガードをかいくぐるように打ち付ける!
(う…ううぅ…!なんだ…よ…これ…!?)
僕はラビットロールに手も足も出ず、ひたすらに打たれる。こめかみに、脇腹に。何度も何度も、ラビくんのパンチが打ち込まれ、めり込み。
(あ…ぐっ…!?)
必死に歯を食いしばる!———瞬間!
『オラ、もーっと鍛えてやるぜ?…腹に力入れろや!』
「ッ!?」
頭に響くのは、ジムでのあの時。散々に打たれ、ボコられ、自信を折られ———
(あ…!)
僕はそれに一瞬だけ、それに飲まれた瞬間!
ギンッ!
「ッ!?」
ラビくんの目がギラリと輝く!僕がはっとすることにはラビくんの拳は僕の顎へと迫っており———!
「シィッ!」
バッシィィィィィィィィィィィッ!
瞬間、ラビくんのアッパーカットが僕の顎を跳ね上げた。
「がはあっ!?」
僕はマウスピースを吐き出した。それと同時、全身の力がふらりと抜け———僕の体は後ろへ、後ろへと倒れていく。
(う…そだ…!)
倒れながら、僕の頭は今起きている出来事を飲み込めずにいた。
勝てると思ったのに。
グロッキーまで追いつめたのに。
先輩としての強さを叩き込んでやるはずだったのに!
(なん…だよ…これ…!)
結末はまさかの逆転劇!ラビくんのラビットロールに僕はなすすべなく嬲られ、心を怯えさせ!———ラストにはフィニッシュのアッパー。
「う……ぅぅ…!」
僕の全身から力が抜けた。腕はくたり、と垂れ下がり、視界は少しずつぼやけていく。それは僕の先輩としてのプライド、全てを叩き壊した証であり———
(終わる…のか…?また…僕…は…)
僕の体がぐらりを揺れる。そして、ぼやける視界が天井のスポットライトを映した———その時!
ガシィッ!
「へへ…!」
「…ッ!?」
ラビくんはなぜか、ダウンしそうな僕をクリンチ!倒れ行くはずだった僕の体を支えた!
「いっててて…よくもやりやがったな!冬馬!」
「ラビ…く…ん…ッ!?」
「へへ、調子に乗るから…!こうやって反撃されるんだよ!」
クリンチしながら、ラビくんが囁く!
「くっ…離せ…!」
僕は必死に体をよじらせる。だが!
「せっかくのチャンス、離すかよ…!」
ラビくんは、放っておけばダウンして終わるはずの僕の体をぎゅっとクリンチ、必死に僕の体を放すまいと抱きかかえた!
「なん…だよ!チャンス…チャンスって!放せ!僕は…!まだ…やれる…!」
「舐めんな!お前が…俺に勝てるかよ…!」
「僕にだって…!先輩としての…意地…が…!」
「ああもう!お前がそうやっていい声で泣くからいけねえんだよ!」
ラビくんの言葉に僕の頭はさらに混乱する。
「なに…言ってんだよ…ラビくん…!僕らは敵同士…!」
「るっせ!」
ドスゥゥゥッ!
「あぐっ!?」
ラビくんのクリンチからのレバーブロー!全身こっぴどく打たれ、弱っている僕はそのダメージに思わず顔をしかめた。
「ずっと…ずっと見てたんだよ…!お前が初めてダウンしたあの試合!俺は、あの声とお前の姿が忘れられない…!」
「な…え…!?」
「だから!ああ、もう!とにかく!お前より強くなくちゃカッコわりぃだろうが!」
「は…なに…!?」
「テメエで考えろ!」
ドスッ!ドスッ!ドスゥゥッ!
クリンチからの脇腹への連打!僕は苦しさに顔が歪むと同時、髪がなびき。…僕は喘ぐような声をだした。
「う…ううううっ…!?」
「はは、どうだよ、冬馬!俺の…レバーブローは…!」
散々に叩きつけられるクリンチからのレバーブロー!…けど僕は。
「く…ぅぅ…!ラビくん…!負けない…!」
必死に歯を食いしばり、ラビくんを放そうと力を入れる。そして———それが、決め手だった。
「…そうかよッ!」
「ッ?!」
「なら…一撃で沈めてやるぜ、冬馬!」
ラビくんの声が変わる。それと同時———
ぐっ!
「っ!」
ラビくんは僕をクリンチから解放!一気に突き放すと———ふらふらと突き放された僕は後ろへとバランスを崩し、
くんっ!
「うあっ!?」
僕は背中にロープを背負った、その瞬間!
「冬馬!」
「ッ!」
ダンッ!
「受けてみやがれ!シィィッ!」
「———ッ!」
バッキィィィィィィィィィィッ!
ラビくんの踏み込んでからの強烈な右アッパーが僕の顎を跳ね上げた!
「あうぅぅぅぅっ!が……はっ…!」
僕はそれをもろに喰らい、ふらふらと、体をふらつかせると———
がくんっ!
一気に力が抜け、僕は膝から崩れ落ちた。…そして、
ドタァァァァァァンッ!
「はあっ!はあっ!…はあっ!あー…ったく。…いい声出しやがって」
「…うぅ……ぅ…」
僕はリングマットに沈みこみ、全身に走る痛みに思わず体を屈め、うめき声をあげると。
「お前がそんなんだから…俺はずーっと忘れられなかったんだよ!」
ラビくんがわけのわからない罵声を僕へと浴びせた。…その時だった。
『なんという展開―!まさに逆転!新人!上野北兎の一撃が冬馬に突き刺さる!冬馬、まさかの失神KO!プロボクサーとしての先輩の威厳が打ち砕かれたー!北兎!見事先輩プロボクサー、冬馬をノックアウトです!』
———試合中、耳には全く入ってこなかった実況アナウンスが耳に飛び込んできた。そして、それと同時。
『ははっ!新人相手に無様だねえ。失神KO喰らうとか!けど~w』
『わかるwあれがデフォだよなあ。ジムでもああだったし。あの方が色っぽくて俺等にはごちそうさまって感じだよなあw』
『ちげーねえw今晩のおかずにでもすっかなーw』
盛り上がる観客の声に交じる、聞き慣れたジムの皆の声が僕の耳に入ってきた。
(そ…っか…。僕のこと…そう言うふうにみてたん…だ…)
この時、ようやく僕は自分がなぜ、負けることをジムの皆に喜ばれているのかを知った。
(はは…なんだよ、それ…)
失意。僕は自分がプロボクサーとしてではなく、色っぽいやられ役にしか見られていなかったことを知り———拳からも力が抜け、目からつうっと、涙が零れ落ちた。
(もう…ダメだ…プロボクサーなんて…)
やめてしまおう。そう思ったその時だった。
「おい、冬馬!」
「…ッ!?」
「強かった!」
「…え?」
ラビくんは思いもよらぬ言葉を僕にかけた。
「正直、負けると思った!だけど、今回は紙一重で俺のが強かった!だから、次も試合するぞ!だから、もっと強くなれっつーの!間違えても、プロやめるとか言うんじゃねーぞ!」
(あ…)
ラビくんのその声、その言葉。僕はその瞬間に、何かがふわりと浮くような感覚を覚える。
(あ…ああ…!そう…か…ラビくんは…僕を…プロボクサーとして…見て…くれている…!)
喜んでいる。嬉しいんだ。…僕は、その言葉の意味と、自分自身の感情を知ると———ぐっと拳を握りしめた。
(…そうだよ…応援してくれる人が…ラビくんがいる!だったら、僕はまだ、プロボクサーとして頑張れる!だから…だから…!)
「ラビ…くん…!次は…負けな…い…!」
痛む体を引きずるように、僕は声を絞り出しラビくんを見上げると———
「あうっ!?」
その瞬間、ラビくんのパンチで打たれた全身が痛みの悲鳴を上げ始めた。
(完敗…だな…今日は…)
———僕は小さく呻くと、そのまま、意識を闇の中へと落とす。でも、その心は晴れやかだった。だって、僕にはこんな素敵な親友がいる。僕をプロボクサーだと認めてくれる、かっこいい、強い、超えるべき親友がいる!
(…次は負けない…!だから…ラビくん…!待ってて…!)
そして。
「はぁー!」
試合を終えたラビくん事、北兎は控室の椅子に座る。そして、あたりをきょろきょろ、誰もいないことを確認すると———
「やっっってらんね!」
大きな声でたった一言、そう叫んだ。
(ほんと、マジやってられっかよ!冬馬のやつ、めっちゃ色っぽくなってやがったし!しかもなんだ、あの殴られた顔!ダウンした体!そそる、どころの話じゃねえよなあ!?そりゃあいつのジムのやつらも骨抜きにされるっつーの!)
北兎は顔にタオルを当て、目を隠した。
(最後、思わずああ言っちまったけど…ああ、やっべ!冬馬のあの姿!あの格好!マジエロい…!リベンジマッチなんてやったら俺の欲情がマジ持たねー!っくー…!)
…乗馬サークルでも一緒だった冬馬。あの当時から「なんだか色っぽいな」と冬馬のことをどこか思っていた北兎。…そんな北兎は昔、こっそりと冬馬のプロデビュー戦を見に行ったことがある。結果、冬馬は見事なKO負け。相手のパンチに散々に顔を潰され、腹を突き上げられ。嬲られ、ダウンする姿を見た北兎はあの時。確かに自分の中の「何か」が壊されたことを覚えている。…それ以来、北兎は冬馬にばれないように「ストーキング」をしていた。———あの日、冬馬がスパーリングで負けたことを知っていたのも、その為だった。
「んでもって…プロになって指名してデビュー戦…。予想以上のエロさだったなあ…」
北兎は冬馬を打ちのめした姿を何度も脳内にMOSOさせる。…ずっと「想っていた」冬馬との夢にまで見たこの試合。隠しておくつもりだった「この気持ち」を何度もぶつけるくらいにテンションも上がったこの試合。
「…やっぱ、こんなこと言えねえよなあ…」
北兎はそんなことを呟きながら、目を隠すタオルを外すともう一度ため息をついた。
「…そう言えば、また挑んで来いよって言っちまったなあ。冬馬も次は負けない…って。…強かったよな、冬馬」
北兎は試合を思い出す。確かに、冬馬は強かった。北兎は追いつめられた。正直、あそこから逆転、勝てたのは奇跡だったと思うほどには冬馬は強かった。
「…となると、負けるだなんてありえねーな」
北兎はぐっと拳を握りしめた。…ダウンした姿がエロい!ずっと気になっていた!———そんな性的な目で見ている相手に狩られる、だなんて、正直カッコわるい。だったら!
「…よし。俺ももっと強くなるか。それこそ、冬馬が逆に惚れてくるくらいには、な!っしゃ!やるかー!」
北兎はそう呟くと、荷物を固め。…次のトレーニングのメニューを考えるのであった。
【END】
(シナリオライター:ミケ空さん)
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という訳で、今回のストーリの為に新しく作ったラビくんこと上野北兎クンに
さっそく試合してもらいました(*´∇`*)
プロボクサー冬馬クンに隠れた性癖をもち、リングの上まで追いかけてきちゃったラビ君^^ 小柄ながらもバネがしっかししていて、リズムに乗った連打を得意とするボクサーになって親友冬馬クンの前に現れました。
良い所まで行きながらも、無様にKO負けをするウェロい冬馬クンが見たくて
ミケ空さんにごり押しして作っていただいたんですが、2人の魅力をしっかり出して戴いて本当に感謝です!m(_
今月は繁忙時期なので新規イラストは1枚のみになりますが、
また随時イラストを追加していきたいと思います^^
(もしこのストーリーで見たいシーンがあったら、コメントで教えてくれると参考になります☆)
2人の絡み、これからもお見せできればと思いますので、
良かったらまたご覧くださいませ(*´∇`*)
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今回は以上になります^^
大晦日に年末のご挨拶を投稿しますのでまたその時にお会いしましょう~~ヾ(=^▽^=)ノ
Thalys
Thalys
2024-12-30 17:21:45 +0000 UTCzact
2024-12-30 11:30:02 +0000 UTC