【先行公開】実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~ 10-8
Added 2025-06-12 12:13:57 +0000 UTC当初は聖都を騒がせたヒュペリオン2の威容が街に溶け込む頃、定位置に近い足下に奇妙な建造物群が建てられた。
船外用の簡易立体整形機にて突如として建てられたそれらは――作業は夜間に行われたため、正しく街の人々にとっては突然現れたようなものだった――本来、船内に収容しきれない人員や、緊急の補給デポを構築するために備わった機能によって作られたが、役割は全く違った。
戦闘団の人間を収容するのも養うのもヒュペリオン2だけで十分であるので、これといって慌てて建物を造る必要はない。
そして、望が強く言い含めていることもあって船内でシルヴァニアンやテックゴブ、トゥピアーリウスを軽んじることは堅く禁じる教育が行われているため、三種族を隔離しておいたりするような場所でもない。
いや、一度でも戦闘訓練を共にすれば、誰も望が引き連れてきた異邦人を〝亜人〟だのと馬鹿にすることをできはしないし、ガラテア達古参が許さなかった。
聖徒の目覚めから危険な戦場に付き従い、命を捨てることを惜しまず挺身し、マギウスギアナイトを圧倒せんほどの怖ろしい戦闘力を有する彼等は、戦場に立つに至ってこれ以上ない友朋だ。
四種族の融和に望はしばらく頭を悩ませはしたが、同じ飯を食わせてひたすらに地獄を見せ続けていれば仲間意識というものは放っておいても芽生えるようで、戦闘団の選抜訓練から弾き出されていない者達は皆、殉教者を出してまで戦っている三種族を侮っていない。
そこには機械聖教の教えとは無関係な、血反吐と死線を重ねた固い友情があるばかりだ。
「第一班の突入に合わせて第二班は支援! それから第三班は予備選力として待機!」
斯様な絆で結ばれた者達は、新造された非常に扱いが難しい強化外骨格、フレスヴェルク2を纏って突入準備を行っていた。
兵員は他種族が混合されており、素早さと被弾軽視に優れるシルヴァニアンと小柄ながら屈強なテックゴブがポイントマンを務め、体格に秀でるマギウスギアナイト達が後衛だ。
一方で、この集団に庭師、トゥピアは加わっていなかった。彼女達は人より大柄な者が多いこと、そして固体戦闘能力に秀でる点を活かした斥候班にアサインされることが専らであるため、強襲部隊への編成は見送られていたのだ。
「行くぞ!」
指揮官役に据えられた騎士の号令に従って、前衛のシルヴァニアンが、えーいと大きな槌を振りかぶった。全てのドアを物理的に解錠することが可能なマスターキー、外骨格でなくば持ち上げることも難しい圧縮鍛造された槌が、遠心力と共にドアを奥に置いてあった戸棚などのバリケードごと粉砕した。
「投擲!」
そして、その脇に控えていたテックゴブが非致死性閃光手榴弾のピンを引っこ抜いて内部に投擲しようとしたが……。
[ぐぁっ!?]
重い銃声が室内から轟き、壁を貫通してポイントマンに直撃。装甲に守られている彼は怪我こそしなかったが、フラッシュバンが手からこぼれ落ちピンが弾ける。
「なっ!? やば……」
〔うわぁぁぁ!?〕
[まぶしっ!?]
本来の意図と違う場所であろうが、正しく設計された道具は正しく機能した。入り口脇に陣取った面々の中で小さな太陽が瞬間的に生まれ、生身であれば確実に失明するであろう強力な光が弾け、視覚素子を一時的に焼き潰す。
それに合わせて聴覚素子を狂わせる高周波が鳴り響き、突入班は大混乱に陥った。
「行け行け行け!!」
その隙を守手側が、突入路を読み切ってショットガンタイプの大口径コイルガンで待ち伏せをするような周到な人物が見逃すはずもなし。自分達の武器で敵が大混乱に陥ったことを認めると、板を打ち付けて封鎖していた窓を外骨格兵がぶち破って跳び出した。
そして、侵入に備えて一塊になっていた者達に遠慮なく掃射を浴びせ……紅い血飛沫ではなく、青い鮮烈な塗料で塗り染め上げていった。
その後の動きも迅速の一言に尽きる。扉を蹴破ったリデルバーディーが悶える生き残りを捕まえて盾にすると、牽制射撃を与えながら室内に引き込んで籠城を再開。しかも、撤退せねば人質となった生き残りを三分毎に一人ずつ殺していくと脅しをかけたのだ。
これに寄せ手側は指揮官を突入組に置いていたこともあって指揮系統が崩壊。次席指揮官が上手く状況を掌握することができず、結局審判が突入の失敗を宣言した。
『レッドチームの敗退。ブルーチーム、勝利』
審判、ヒュペリオン2のCICからドローン越しに見守っていた望は額を押さえて小さく溜息を吐いた。
「はぁ……教本を守るのはいいが、守りすぎは鴨だとも教えたはずなんだがな……」
さて、今行われていたのは実機演習であって、実際の戦いではない。
死の渓谷攻略、及び東方の大陸係留索に乗り込むにあたって陸戦隊に今までとは違った訓練が必要だと想定し、急造した訓練用建造物を使って閉所戦闘の訓練を実施していたのだ。
使っているのはペイント弾であるが、液体というのは中々に〝硬い〟もので、コイルガンの出力で打ち出されれば外骨格越しであっても殴られる程度の痛みは感じる。その上、一目で負け犬ということが分かるザマにされることもあって精神的なダメージも少なくない。
青い塗料でベットベトにされた者達は意気消沈してキルハウスから出てきて、後に揚々と勝者のレッドチームが続く。
『よくやった、騎士バルトロマイ』
「お褒めにあずかり恐悦至極にございます、聖徒様。ですが、此度の勝利、熟練のリデルバーディ殿がこちらにいらしたのも大きな勝因かと」
その中で堂々とヘルメットを被らずに、代わりに伊達なIRサングラスをかけて指揮官としての矜恃を示し続けた老騎士を望は褒め称えた。
彼はバルトロマイ・ヴィッツ騎士補、いや、前任の西園騎士団長が巨竜防衛戦で戦死したことを受け、後任人事決定のドサクサに紛れて望が「戦闘経験豊富な配下が欲しい」として一一一戦闘団の強襲騎士団長に引っこ抜いてきた老将だ。
群狼とフレスヴェルク2を正式に配備し、軽装外骨格兵部隊を編成することができた望は、その指揮官に経験豊富で部下からの信任が篤い人物を望んだ。大半は徴募兵で賄うにしても、専業軍人であったものが幾らか欲しかったので、アウレリアに無理を言って譲って貰ったのである。
『で、どうだ』
「そうですな、聖徒様の仰る通りに些か真面目に過ぎますな。これでは頭の回る敵であれば、兜首を献上しているに等しいかと」
『であるか』
辛い評価であるが、望としてもその通りだと思った。
キルハウスの壁の厚みは一般住居や汎用船室と然して変わらない厚みに作っていることは、教えてはいないが状況をきちんと読んでいれば簡単に分かっただろう。そうすれば、配置をもっと工夫して壁抜きしたショットガンで出端を挫かれることもなかったはずだ。
戦闘教本を作ったのは望であるが、その第一文に秀でた定石は奇策を打ち砕く、と記したことを少し後悔し始めている。
これはあくまで状況を見て最適な解を叩き付ければ強いという話であって、この本に書いていることを真面目に守れば勝てるという訳でもないというのに。
『もう二、三回扱いてやってくれ。現場で死ぬより……』
「訓練で死ぬような目に何度も遭う方がマシ、ですな」
『そういうことだ。頼むぞ』
頼りになる前線指揮官をもう一人手に入れた望は――それでも、必要とあれば自分が最前線に立つつもり満々であったが――新兵達にとっては無情な指示を下し、今度は別の回線に意識を傾けた。
地上で癖の強い外骨格を着た者達が揉まれている間、同じく機動兵器パイロットも非常に難易度が高いシミュレーターに弄ばれていた。
今は想定される大陸係留索内部構造物内での、非常に狭い搬入通路で格闘戦を強いられている設定で訓練を実施しているのだが、そこかしこから悲鳴と支援を求める声が聞こえてくる。
『2-3! 無駄に振り回すな! 積み上がったコンテナが崩れる!』
『わぁぁぁぁ! わぁぁぁぁ!』
『くそっ、1-2! 僕のカバー役だろ! そんなに離れるな! クソッタレ! 聞いてるのかファルケン!! ああああああ、どいつもこいつも!!』
マギウスギアナイト上がりの新兵を教導するのにガラテアが苦戦している声が聞こえる。望は再びこめかみに額をやって、これが準備期間中に立派な軍隊になるのかと苦悩した。
次席指揮官としてガラテアは優れているが、どうにも〝騎士〟という気位の高い連中が、特注の守護神に乗っているという状態がよろしくない。
功を焦り、我を見よと主張して、戦闘単位に纏まるよりも個人武勇を誇る古代の風習が抜けきっていないのが扱いづらくて仕方がない。
考えれば考えるほど自分達は恵まれていたのだなと痛感する望。死んでも何度でも生き返ることができるシミュレーターで「痛くなければ覚えませぬ」と本気でボッコボコにされ、ありとあらゆる死に方を堪能させられる無間地獄もかくや時間を味わうことになるが、それによって錬成される兵士は〝死の恐怖〟や〝命令違反〟とは無縁の覚悟が完了しきった死兵ばかりだ。
尋常の価値観を持つ国家からすれば〝化物〟と呼ぶのが相応しい兵士が、基底現実時間にすれば高々一週間から二週間もあれば、兵営から吐き出されてくるのは正しく悪夢であろう。
だが、同じ時間を使っても圧縮時間を用いることができない兵士達は、高次連の練度で舌が肥えまくった士官の満足を得ることは難しい。
どんな無茶でも文句を言いながら玉砕する覚悟で突撃し、実際に砕け散りながらも遂行する。そして生き残りは練度を上げ、更に密に、硬く硬く何度も折り返されて強くなった日本刀のような粘りのある兵士を今の設備で育成することは不可能だ。
故に妥協点とし、可能な限り生還させ、経験という至宝を持ち帰らせる。
鋼には鋼の鍛え方があるが、珠には珠の磨き方がある。要はそう言う物だと彼は悟った。
何より望は、できる限り大勢を活かして連れ帰り、凱旋式で愛しい人と抱き合わせてやりたかった。
機械化人や数列自我が併せ持つ、儚い有機知性体への根源的な愛がそうさせるのもあるが、ここで暮らす時間が長くなるにつれて涌いてくるもの。
情だ。この感情が残っているからこそ、彼等は未だに自分達を人類と定義しているのである。
「こっちも散々だな。騎士というプライドを根っこから掃除させるのは無理か。二世代か三世代重ねて、形骸化させるくらい長い目で見ないと駄目かねこりゃ」
しかし今のザマでは、相当に扱きまくってもかなりの死傷者が予想される。
擬似的な死の感覚程度にすらオタついているのは当然として、個人武勇に拘って肝心要のところで「わーい、大将首だー!」と命令無視の上に突撃なんぞされては適わない。
名誉より勝利を。そして勝利の上で武功を。時折、前提が引っ繰り返ることのある騎士という生物を御することが怖ろしく難しいことを、今になって現代宇宙軍の士官は思い知ることになった。
その点、もう開き直って斥候として使い、乱戦時にヤバイ所に突撃させてやることを約束すれば、躾けられた猟犬の如く聞き分けのいいトゥピアーリウスの方が幾分か使いやすい。蛮性という点では彼女達の方が何千倍も上であるが、逆に現代軍のやり方には見合っている部族というのも妙な話であった。
「前哨戦の渓谷で、どれだけ緊張をほぐせ、私達のやり方に従わせられるかがキモだな……セレネ」
『はい、何でしょうか上尉』
呼びかければ、艦長席の脇息に腰掛けて項垂れて――今までオフラインになっていたのだろう――人形のように沈黙していたセレネのデバイスが顔を上げた。
現在、彼女は〝テミス11〟の再艤装と兵士達の装備製造に掛かりきりで中々に忙しい。なので、練兵は全て望が遠隔で指示していた。
「装備充足率はどんなものかな」
『計画通りです。春には予備分も含めて完全充足いたします』
「早いのは結構だが、早すぎるのもな……」
ヒュペリオン2は大規模工廠ユニットこそ持たないが、内部の兵士が損耗しつつも前線を維持できるよう戦えるようにする、移動する拠点にして超重砲であり生産設備だ。一隻三役を熟す巨人の旗頭は伊達ではなく、セレネという頭や熱信党という手足を得た今、船内では無数の疑似知性が黙々と自分の仕事を熟していた。
故に装備の拡充は着々と進み、現在の戦闘団装備は――随伴歩兵と戦車大隊に砲兵大隊、支援大隊含めて旅団規模に収まった一一は正規、予備、臨時の三系統で完全充足の目処が立っている。
高次連はお得意先である黄道共和連合にいい顔をするため、倉庫内に装備製造用の原料ブロックを満載した状態で納品していたため、一々各家庭から徴発する必要もなく装備の生産ができたからだ。
しかし、兵士が育つより装備が揃う方が早いなど、旧人類であれば当たり前だが、統合軍においては異例の状況を味わった臨時指揮官は――尚、軍大学など行っていない一介の上尉風情――現地反乱勢力の教育支隊に配属された特殊部隊はこんな気分なのだろうかと想いを馳せた。
考えれば正規軍時代は簡単だった。最低限、自分と同じ教育を施された新兵がぺいっと放り出されてきて、言うことはちゃんと聞き、やっちゃ拙いことは理解して、その上である程度は使い物になるのだ。
しかも、余程じゃないと意味消失する心配も要らないときた。
もしかして自分、恵まれすぎてた? と考えつつ、望は教育肯定を記したデータを開いて頬杖を突きながら、深い溜息を吐く。
『お悩みですか?』
「まぁ、色々な。下士官の層が薄いこととか、才能がありそうでも急に平民を昇格させると騎士階級が文句言うところとか……」
「上尉、そういうゲームもお好きじゃないですか」
地主階級のせいで法案が通らねぇ! と夜ぴいて頭どころか全身を捻りながらお楽しみだったではありませんかと頬を突っつかれて、あれはゲームだから楽しいのだと抗弁する望。
実際にやられると、これ程面倒なことはない。旧い体勢を尊重するとは言ったが、残したら残したで面倒が多すぎる。然れど、先に来たとは言え二千年寝太郎だった自分が上から偉そうに物申すのは違うし……と延々苦悩しつつ苦労する古代人の悩みは尽きないのであった…………。
【惑星探査補記】兵站、及び教育という観点において統合軍は過去最も恵まれた軍隊であったと言っていいだろう。
Comments
更新ありがとうございます
1414matumoto14
2025-06-12 15:27:50 +0000 UTC