【限定】注文の多い・・・【文字だけ】
Added 2023-08-08 06:00:00 +0000 UTC「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」
二人は戸を押して、なかへ入りました。そこはすぐ廊下になっていました。その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。
「ことに体が柔らかい方や、お若い方は、大歓迎いたします」
ずんずん廊下を進んで行きますと、こんどは水いろのペンキ塗りの扉がありました。
そして二人はその扉をあけようとしますと、上に黄いろな字でこう書いてありました。
「当軒は注文の多い・・・ですからどうかそこはご承知ください」
「注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。」
ところがどうもうるさいことは、また扉が一つありました。そしてそのわきに鏡がかかって、その下には長い柄のついたブラシが置いてあったのです。
扉には赤い字で、
「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきもの
の泥を落してください。」
と書いてありました。
そこで二人は、きれいに髪をけずって、靴の泥を落しました。
そしたら、どうです。ブラシを板の上に置くや否や、そいつがぼうっとかすんで無くなって、風がどうっと室の中に入ってきました。
二人はびっくりして、互によりそって、扉をがたんと開けて、次の室へ入って行きました。
扉の内側に、また変なことが書いてありました。
「お持ちの電話と鋭利なものをここへ置いてください。」
見るとすぐ横に黒い台がありました。
二人はスマホを取り出し、糸切りハサミなどを台の上に置きました。
また黒い扉がありました。
「どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。」
二人は帽子とコートを釘にかけ、靴をぬいでパタパタあるいて扉の中にはいりました。
扉の裏側には、
「ヘアピン、筆記用具、手鏡、財布、その他金物類、
ことに尖ったものは、みんなここに置いてください」
と書いてありました。扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、ちゃんと口を開けて置いてありました。鍵まで添えてあったのです。
二人はヘアピンをはずしたり、ペンケースや化粧道具、財布を取り出し、みんな金庫のなかに入れて、ぱちんと錠をかけました。
すこし行きますとまた扉があって、その前に硝子の壺が一つありました。扉には斯書いてありました。
「壺のなかのテープを口や手足にすっかり巻き付けてください。」