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カバスのマチュ

『準備はいいかマチュ?今日がお前の初出勤だ。くれぐれも粗相のないようにな』 G・クァックスと共に大気圏突入し、機体の自動制御で海に墜落する機体から脱出して以後…… 彼女は地球にある娼館「カバスの館」に身を寄せていた。 大気圏突入に耐えうるほど高性能のガンダムとはいえど、パイロットは生身。水没や着陸の衝撃には耐えることができず、コアファイターでの脱出、不時着の際に怪我を負った状態で右も左もわからぬ地球を生きていく術はない。 彼女の来訪を知っていたらしい「お姉さま」の口ぎきがあったとはいえ、いつまでもお客様扱いしてくれるわけでもない。 何やら「お姉さま」と一緒に脱出するための策を少女たちが講じていたようだが、それがうまくいったのかいないのか…… ともかくとして彼女がここに来てから数日。ついに彼女も「お客人」ではなくなる時がやってきた。 とはいえやはりお姉さまのお気に入りである彼女には、そこそこ特別な待遇をしてくれているのか、「貫通」を伴う行為だけはさせないという誓約はあるのだが。 (……だからって、こんなの……) 先方の趣味に合わせたメイド服を纏い、落ち着きなく身体をもじつかせる。 嫌だという気持ち半分、さっさと終わらせたい気持ち半分で相手を待つことしばらく。部屋の扉が開くと、そこにいたのは…… 『ほおぅ、これが噂の流れ星ちゃんか。宇宙から流星と共にやって来たと聞いたが、なるほどいい目をしていやがる』 (………………は!!!?で、でっ……でっか!!!?) そこにいたのは連邦の高官らしく、上等なスーツに身を包んだ…… 身長が2メートルを超す、筋肉隆々の男性だった 『俺ぁ元軍人だ。眼を見ればそいつがどんな修羅場をくぐって来たかはわかる。お前さん……自分は素人だが、いい経験をしてきたようだな。さしづめカプセルか何かでの大気圏突入……それが流れ星の正体ってところか』 「…………どうも」 147センチのマチュと比較して、頭2個分ほども違う体格差の男性に寄られてたじろぎつつも、しかしその怯えを気取られないよう努めていつも通りに。 大人に対して彼女がよくする自己防衛。眼を逸らし、徹底的に心を閉ざして相手の言葉に耳を傾けず、嵐が去るのを待つ。 けれど今回ばかりは相手が悪すぎた。 『まあそんな世間話はどうだっていい。仕事の件……ちゃんとやっているんだろうな?』 「……ハイ、朝カライッテマセン」 連邦の高官、という言葉から連想されるものとはまるで別。以前動画で見たジオンの将軍、ドズル・ザビに勝るとも劣らぬその巨体と豪放さ。それは想像以上のプレッシャーを彼女に与えていて。 見た目に違わぬ強引さで切り出される本題。ぐい、と距離を詰めてくる相手に対しての防衛手段を彼女は持ち合わせていないのだ。 そして今の彼女はもてなす側。自分自身がどう思っていようと、ここでは相手の思うようにしか動けない。 それでも前もって覚えていたセリフをあえて機械のような無機質さで読み上げるのは、せめてもの反抗なのだろうか。 『いいだろう。ではまず……メイドらしく、奉仕をしてもらおうか』 「…………はい」 けれどそんなささやかな反抗など、迫りくる現実を前にしては何の意味もなく。 マチュはこの男性にかしずき、奉仕を強要されるのだ。 _____________ 【9:00】 『……こちらモーニングティーです。どうぞ』 それから。 男性への「奉仕」を、このカバスの館という娼館で強要されることとなったマチュは…… 『うむ。ほらどうした?遠慮なんぞする必要はない、お前も飲め』 「え、はあ……はい……?」 なぜかこの男性と一緒に、ティータイムと洒落こんでいた。 ご丁寧に彼女と別のメイドを呼び寄せ、蝶よ花よと世話をさせる様子は、とても奉仕をさせているようには見えない。 『そう怪訝な顔をするなよ。お前が給仕なんぞできるわけがないのは一目見りゃわかる。ヘタクソな料理なんぞ出してくるより、食卓に花でも添えた方がまだ奉仕らしいじゃねえか』 「……っ、そんな事……」 『ないってか?まあ、自分で食う程度ならなんとかなるかもしれん。だがその甘ったれた生意気ヅラを見りゃあ、人様に出せるようなモンじゃねえのは明らかだ』 「……さっき、いい目してるって言ったじゃん……」 『ああ。跳ねっかえりの鉄砲玉としちゃあ上出来だ。鍛えりゃいいパイロットになったろうよ』 『さあ、覚悟しておけよ。まともな奉仕ができん以上、お前さんにできる事は限られる。まずはとにかく……茶を飲め』 (……っ、お茶……!) だがこれこそ、マチュから男性にできるただひとつの奉仕であるのだ。 男性の言う通り、彼女には奉仕の技能などないのだから。 生まれも育ちもそれなりに上流で、生活面で困った経験のない彼女にそのような技能など期待するだけ無駄。というのは確かにその通り。 言われた側の感情面はともかく、相手が正しいのは疑いようもなかった。 そしてマチュはそれから1時間もの間、男性とのモーニングティーに付き合わされるのだった。 そしてモーニングティーを終えると…… 【11:00】 『ほらどうした?そんな手際じゃあ、一日かかっても終わらねえぞ』 「……な、なんで、こんな事……っ!」 続いてマチュがやらされているのは、館の掃除。 館の中でもよく使うところについては、彼女の面倒を見てくれていた子たちのような小間使いがよく手入れをしてくれている。それこそ本物のメイドであるように。 しかしここが娼館である以上、どうしても単純なメイドとしての技術だけを活かすということはできない。生粋のメイドというものがいない分、その仕事ぶりには目の付きにくいところで微細な粗があるもの。 マチュはこの男性に引きずられ、館内のそうした細かいやり残しをひたすら掃除させられていた。 『なんでお前がこんな事を、か。逆に聞くが、お前に何ができる?……何もできやしないだろう。だったらせめて、何かをやってるフリでもしてみせろ』 「……っ、だったら……!」 「だったらせめて、……とぃれ……行かせてよ……っ!朝も行ってないって、知ってる癖に……!」 『言っただろ?お前にゃ何もできねぇと。普通の奉仕も「そういう」奉仕もできねえんだから、せめて水芸のひとつでもやり遂げてみせろ』 『当然、途中で漏らすようなことは許さん。ペナルティとして、今日一日タダ働きだからな』 「こんなんで、掃除なんかできるわけ……!」 『泣き言を抜かすな!さっさとやれ!』 少々理不尽にも、厳しいようにも聞こえる男性の言葉。だが事情を知っているにせよ知らないにせよ、その言っていることはある程度マチュの現状に当てはまるものだった。 差出人が誰かもわからぬメッセージとその手引きのまま母艦の監禁を逃れ、地球へ落ち伸びた彼女。その送り主が誰であるのか、抜け出した後どうするのかさえも知らないまま地球へ飛び降りた彼女。 モビルスーツ以外はその身ひとつで新天地へ降り立った彼女は、当然だがその新天地でしばらくの間であっても生きていかなければならない。そうしたことまで、脱出の際に考えていただろうか? 右も左もわからない地球で生き延びるため、彼女に何ができるのだろうか? 鳥かごでもがく小鳥のように、自由を求めて飛び立った少女。しかし鳥かごというのは飛ぶ自由を奪う代わり、生きるのに不自由することはない。 何もさせてもらえない、ということは裏を返せば何もしなくてもいいということ 何でもできるということは裏を返せば、何かをしなくてはいけないのだということ ソドンの軟禁……あるいはそれよりもっと以前から、どことはない窮屈さから逃れたいという漠然とした願いを抱いていた彼女。だがその「窮屈」から逃れた先にあるのは、等身大の自分。 ジークアクスも傍にない今、他でもない一人の人間として自分に何ができるのか。図らずもマチュはこのような場所このような状況で向き合わされていた。 【15:00】 それから。 マチュはこの男性と一緒、カバスの恋人として奉仕活動に励んでいた。 もちろん素人の彼女のこと、まっとうな「恋人」としての仕事ができるはずもなく、もっぱら男性の言いなりになっていただけだったのだが…… ともかくあれから昼食を相伴し、その後もずっと館のお掃除に励んでいたマチュの様子はというと…… 「ふ……っ、う……うぅ……!」 ハタキを手にしてはいても、ほとんどそれを振るうことはなく。 ぎゅっとそれを握りしめ、身体を縮こめて…… メイド服の下でもぞもぞと脚をすり合わせる。どう見てもあからさまな尿意限界のしぐさ。 だがそれも無理はない。男性からの言いつけで、彼女は朝起きてからの排尿を済ませていないのだから。 正直に言うなら勤務を始めた時点から落ち着かないほどの尿意を抱えていた彼女が、二度のお茶とこれだけの長時間働き続けていただけでも驚嘆すべきこと。昨日の22時に就寝したと仮定して、今はそれから19時間は経っている。 (ぉ…………) (ぉし……っこ……で、ちゃ……で、ちゃうぅ……!がまん、しすぎて、しびれ、て……) もはや彼女の頭の中は「そのこと」でいっぱいになっていて、恥ずかしいとかそういった感情も消えつつあって 生意気、という言葉に象徴される彼女の高いプライドも、大人への不信も、それら全てを黄色い濁流が押し流していく。 そして…… 「ひっ…………!?」 びくんっ、マチュの背中が跳ねる。 ぞくぞく、きゅうんと、身体中を嫌な感覚が駆け巡る。 不意に高まる波。それに抗うべく下半身に力を入れて、必死に耐える。 だがもう、それを続けていくことはどう考えても不可能で 「お、おね、おねがっ……!といれ、ほんとにもっ、だめっ……!おしっこ、でちゃっ……!」 「といれ、お……ねが、おねがぃ、します……っ!」 ついに口をつく「おねがいします」 それは今まで彼女が、よほど信頼する相手でもなければ言ったことのない言葉。彼女の認めた相手以外に対しては、言うつもりなんかない言葉。 それをこんな会ったばかりの、信頼どころかどちらかと言えば嫌いな相手に、よりにもよってこんな恥ずかしいお願いを。 自尊心もずたずたにしながら、それでもただ、それだけはと切なる願いを口にする彼女に与えられる答えは…… 『……駄目だ。何度も言わせるなよ。水芸の一つも立派にやり遂げてみせろ。トイレだなんぞともっての外だ』 「だ、だってわたっ……もっ、がまん、でき……」 無情にも突き放され、トイレに行かせてもらえなかったマチュ。 彼女がお掃除を立派に終えるまで解放されることはないと改めて突きつけられながら、しかしもう彼女の膀胱は限界で…… きゅうぅん、ぱんぱんの水風船が、切なく切なく収縮する。 「ひィっ!?あ、う、あ……!」 「うっ……うううぅぅっっ……!!!」 最後のとどめというべく叩きつける、黄色い大津波。それは彼女の最後に残った歯止め……男性への淡い恐怖心をも塗りつぶし。 圧倒的な排泄欲求だけが彼女を突き動かす。目の前にある「できそうなもの」…… 掃除のため傍に置いていた、水拭き用のバケツに。 まだハタキ掃除の段階であるため水を入れる前の、空のバケツ。そこに駆け寄って今、メイド服を捲り…… 館から支給された白のレースを引きずりおろし、それは始まった。 びしゅうううぅうぅううううぅううーーーーー!!!!!ぶしゅしゅしゅしゅしいいぃいいぃいいいーーーーー!!!! 「ふうぅっ!!!…………っぁ……!」 「は……あ、ああ……!」 (な……なに、なに、これ……!?あたま、きらきら……ちがぅ、ちかちか……する……!) (き……きもち……いい……!) 強く、激しく出口を震わせながら、金属のバケツを叩きつけるマチュの限界オシッコ。 モーニングティーの時も、お昼の時も、掃除の時もずっとずっとしたかったものを思うさま解き放つ解放感。 つらい我慢の苦しみからも、お漏らしの恐怖からも解き放たれた安堵感。それらが全部ないまぜになって、ひとつの心地よい混沌が彼女を包んでいく。 男の人の前でしているという恥ずかしい現実さえも、その気持ち良さの前では霞み…… 無意識にため息さえつきながら、マチュはこの一分少々の至福に身を委ねるのだ。 ぶしょおぉおおおおおおおおぉおおーーーーー!!!しゅういぃいいぃいいいいぃーーーー…………!! しゅうううぅうぅぅうーーーーー、しゅうっ、しゅろろろろ…… しょろ……ぽた……ぽた…… 「ふ……あ、はふああぁ……!」 (お、おわ……ったぁ……すご、か) 『どうやら終わったようだな』 「………………っっっっっ!!!?!?ふぎゃあああぁっ!!!?」 放尿が終わり、一息ついたマチュ。だが…… これまで存在を忘れていた男性が背後からぬっと現れ、驚きのあまり彼女は金的めがけて必殺の蹴りを…… 『……甘ェな』 「……は?え?な、硬……!?」 『あらゆる刺激に対し、一瞬で硬化する海綿体……』 「そういうレベルじゃなくない!?」 『俺は軍人だ!そこらの政治家とは鍛え方が違う!』 『連邦議員を!!!舐めんじゃねええぇっ!!!!」 「ワケわかんないんですけどおおおっ!!!?」 軍警を悶絶させた必殺の金的蹴り。それは異次元レベルの硬さを持つ男性の海綿体に阻まれ、決まることはなかった。 そして熱く激しく盛り上がる男性の姿に圧倒されるマチュ。だが次の瞬間、男性のとった行動は…… 『……さて、それじゃあこのバケツは貰っていこうか。代金と交換だ』 「……え?あの、だってこれ、おしっ……あの、きたない……」 『だからだろうが。お前さんが一日かけて作った仕事の成果を、収めんでどうする』 『……ふん、なかなかの量だ。色も良い。初めてにしちゃ上出来だ』 「…………あ」 ひと仕事終えたマチュへの労いの言葉。ぽん、とその巨体に似合わぬ優しい手つきで頭に手を置いて労をねぎらう。 ……もう片方の手に、オシッコ入りのバケツを持っていることを除けば、とても心温まるシーンであった。 そしてこれを最後、男性はつかつか帰っていき…… その背を見送るマチュは心の中で、ある決意を固めていた。 _______________ 【翌日】 『マチュ!ドウシタ!』 「……あのねハロ。私、決めたよ」 『キメタッテ、ナニヲ?』 「地球に降りて、仕事してみて、よくわかった。……私、やりたいこともやれることも、なんにもないんだって」 「だからさ、こんな私にもひとつだけある……ガンダムと、もっと向き合いたいって思ったんだ。私がガンダムをもっと知れば、それがシュウジにも繋がってく気がして。だから……」 「おっさん、お姉さま、ごめん。私……行くよ」 後日。決意を固めたマチュは密かにコアファイターへ戻り、大気圏突入後に分かれた本体の……ガンダムの元へ向かっていた。 地球で仕事をしてみてわかった無力さ。自分ひとりで生きていくことの難しさ。 けれどそんな彼女にもたったひとつ残った「特別」。それともっともっと向き合うために。 『マチュウウゥゥウゥゥウゥウーーーー!!!!マッテイタゾ!!!!マチュウウゥウゥゥウウウーーーーーーーー!!!!!!』 「え!?なに!?なんなの!?」 主人の帰りを喜ぶ機体を代弁するように、急激にテンションの上がるハロに引きながら…… マチュはガンダムと一緒に、地球の大地へ立つのだった。


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