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【小説】廃校舎棟プロレス~敗北の女王、雅楽川ロゼ転落~

はじめに


小説に入る前に、まず投稿予定としていた日から1日遅れての投稿、誠に申し訳ありませんでした。

ホントは創作活動の場で私生活を言い訳にしたくなかったのですが、現在ニカは私生活の方がなかなか忙しく、今月、思うように創作に時間を割けませんでした。

作品を作るときはいつも皆様に楽しんで頂くこと、自分も楽しむことを心掛けていますが、今から投稿するものは少し自信がないです。

6月にFANBOXの支援者様の投票で決まった大切な作品なだけに、投稿が遅れてしまうことも、自信のない状態で投稿してしまうことも本当に申し訳なく思います。


また後日必ず、ニカが納得できる形でPixivに全体公開します。

ですので今回は一旦FANBOXの全体公開という形にさせてください。




↓↓↓↓本編↓↓↓↓


華暖学園高校には、設備の老朽化によって今は使われなくなった廃校舎棟がある。


旧芸術棟と呼ばれ、かつては美術や音楽など芸術の授業や文化部の活動場所として利用されていた。

しかし、廃校舎棟となった今、旧芸術棟は全く違う姿に変わっていた。


カンカンカンカンカー―――ン!


かつて音楽室だった広い防音室に、ゴングの音がけたたましく鳴り響く。


部屋の中央には5メートル四方のリングが設置されており、30名ほどの生徒がそれを取り囲む。


リング上には水着に身を包んだ二人の女子生徒。


旧芸術棟は今や、裏生徒会が取り仕切り、限られた生徒のみが立ち入りを許される紹介制の闘技場と化していた。


そして、この日、空調の効かないこの灼熱の部屋はいつも以上の熱気に包まれていた。


それもそのはず。対戦するのは、裏生徒会副会長にして廃校舎棟プロレス”元”女王、華暖学園高校最強と称されていた3年生の雅楽川ロゼ。

対するはなんとデビュー戦の1年生、花原水月なのだ。


28戦27勝という圧倒的な実績を誇るロゼの相手としてはあまりにも不釣り合い。

普段なら絶対に組まれるはずのないこの対戦カードが実現したのは最近のロゼに対する評価が大きかった。



1か月前、裏生徒会は廃校舎棟プロレス最強を決めるチャンピオンズトーナメントを開催。


出場選手は実績と観客の投票で決められた4名。


廃校舎棟プロレスの無敗女王、雅楽川ロゼ。

最強のパワーを誇る3年生、右近千百合。

多彩な寝技を使いこなす2年生、矢車來々里。

そして、デビュー2戦目にしてチャンピオンズトーナメント候補の3年生を倒したスーパールーキー、1年生の手鞠みほろ。


優勝間違いなしと思われていたロゼだったが、1回戦で新人の手鞠みほろのカベルナリアで失神敗北するというまさかの事態が起きた。


みほろは勝利した喜びからか、試合のダメージで立ち上がることのできないロゼの顔面に股間を押し付けて座り込み、勝ち誇る。


それまで誰も見たことがなかったロゼの敗北した姿に観客たちは大きな衝撃を受けた。


結局、みほろは決勝で矢車來々里を見事打ち破り、1年生にしてチャンピオンズトーナメントの真の女王となった。


一方、女王の座を奪われる形となったロゼ。

敗戦後の彼女に対して舐めた態度をとる生徒が増えていた。


かつては廃校舎棟プロレスの絶対的な存在として、女子生徒から尊敬の眼差しを向けられ、しっかりと実績を積んだ者だけが敬意を持って戦いを挑んでいた。


しかし、実績のない1年生に失神敗北し、挙句、顔面騎乗されたという噂を聞きつけた女子生徒たちが、実績など関係なくロゼに戦いを挑むようになったのだ。


当然必ず試合を受けなければならないわけではない。

しかし、裏生徒会の副会長であるロゼが舐められたままでは、裏生徒会全体が舐められかねない。

そう考えた裏生徒会長の意向もあり、ロゼはチャンピオンズトーナメント1回戦敗退の傷が癒えぬまま、週に1試合のペースで戦い続けた。

ただ、さすがは元女王。いくら傷心とはいえ、チャンピオンズトーナメント後にロゼに挑んできた4人の女子生徒を完璧にマットに沈めた。


「やはりまだ“女王ロゼ”は健在」


4人目の女子生徒と戦った時点で、毎週の試合の疲労とダメージの蓄積で、あわや3カウントというところまで追い込まれる場面もあったが、その後は見事逆転し、その場にいた観客の全員をそう思わせた。


しかしその時、事件は起こった。


突如観客席にいた一人の女子生徒がリングに駆け上がると、勝ち名乗りを上げるロゼに飛び掛かり、まんぐり返しの要領で丸め込むと両肩をリング上につけるフォールの体勢に!!

咄嗟の出来事にロゼも驚くが、レスラーとしてのプライドからか、と足をばたつかせる。

しかし深く深く極まった丸め込みに苦戦し、返すまでに10秒ほどの時間がかかってしまった!!


騒然とする会場の中、ロゼをフォールした少女は立ち上がって叫んだ。


「私は1年の花原水月。今、このリングに初めて上がりました。見ての通り、私はロゼ先輩を3カウント以上長くフォールしました。私の方が強いっていう自信があります!私はロゼ先輩を倒して、この廃校舎棟プロレスにデビューします!」


余りに突然のことで会場全体が困惑している。


しかし、これ以上裏生徒会の権威を落とすわけにはいかない。


翌週、雅楽川ロゼと花原水月の試合が組まれることとなった。





カ―――ン


試合開始のゴングが鳴っても、しばらくはにらみ合ったままの状態の二人…。




地力はロゼの方が上。

組み合ったまま、水月をロープまで押し込むと、エルボーを打ち込む。

百戦錬磨のロゼの一撃に並みの女子は耐えられない。

しかし、水月は耐えた上で負けじとエルボーを打ち返す。


ズガッ、ズガッ、ドガッ…


激しいエルボーの打ち合い。

あのロゼに打撃戦で真っ向から打ち合える水月に驚く観客たち。

会場は大いに盛り上がる。


しかし、徐々に胸の痛みに耐えられなくなってきた水月の攻撃のペースが落ち始めると、ロゼが一方的に打撃を与えていく展開となる。


ガッ、ドガッ、ズガッ


エルボーが連続で水月の胸を抉り、膝が腹を突き刺す。


「アッ、んぐっ…いやぁっ!」


打撃を食らう度、水月の短い悲鳴が会場に響く。

序盤の展開は打撃戦でロゼがリード。


ロゼは水月の腕をつかむとロープに振る体勢に。

エルボーや膝蹴りは強力だが、それだけではダメージは与えることはできてもフォールやギブアップにはつながらない。

ロープから跳ね返ってきたところをドロップキックで迎撃し、ダウンしたところを得意の絞め技で決める。

そう考えていたロゼだったが、ここで水月が予想外の動きをする。



グッ…


なんとロープに振られそうだった水月が、その場で踏ん張ったのだ。


「なっ!?」


これにはロゼも驚きの表情を浮かべる。

膝やエルボーはこれでもかと打ち込んだ。廃校舎棟プロレスのリングに上がる並みのレスラーなら、この場面で踏ん張ることはまず不可能。

にも関わらず、素人の水月はその場に踏ん張って、ロゼが引っ張っても頑として動かない。


(なんなの…この娘のタフネス…)


驚くべきはそれだけではない。

なんと今度は水月がロゼをロープに振り返したのだ!


「こンのぉっ!!」


「…っ!?!」


まさか自分がロープに振られると思っていなかったロゼ。

当然油断もあったが、水月の予想外の力に負け、ロープの方へと走らされてしまう。


ギシッ!!


水月に投げられたロゼの体を受け止めた硬いロープが大きくたわむと、今度はロゼを水月の方へと跳ね返す。


そして水月渾身のラリアットが炸裂した!


ズガァッ!!


「っんぐあああああ!!!!」


体をすごい勢いでリングにたたきつけられ、たまらず悲鳴を上げるロゼ。

その姿に会場も騒然とする。


この試合、最初にダウンを奪ったのはデビュー戦の水月の方であった。


ラリアットに加えて、リングに体を強く打ち付けたダメージで立ち上がることができないロゼ。


水月はすかさずエビ固めでフォールの体勢に。

カウントが入る。


1…

2……


ガバッ!


ロゼはこれをカウント2で返す。


試合を決められず、水月は悔しそうにマットを叩くが、1年生の素人が廃校舎棟プロレス内最強と称されたロゼからダウンを奪い、フォールするという前代未聞の状況に、観客達はおおいに盛り上がる。


「いきなりペースを奪ってんじゃん!あの子何者!?」

「水月ちゃん!?すごすぎ!!」


観客のボルテージが上がっていく中で、フォールを返してもなかなか立ち上がることができず、リング上で這いつくばるロゼ。


(……っ脳が揺れて…起き上がれないっ……私、またこんな素人にっ……!?)


焦りと悔しさにさいなまれ、思い出したくない記憶がロゼの脳内を駆け巡る。


1か月前、手鞠みほろに敗北したあの試合。

あの時も序盤はペースを掴んでいたが、実線データのほとんど無いみほろの予想外の攻撃の数々に、ひとたびペースを奪われるとまるで対応できなくなった。

そして最後はクロスアーム式のカベルナリアで敗北。

四肢を拘束され、どう足掻いても抜け出せず、両手を封じられているためタップすることも許されない。

この苦しみから逃れるには「ギブアップ」と口に出すしかない。

しかし、無敗女王としてのプライドが頑なにそれを拒む。

ギブアップを口にするということは「勝てません、助けてください。」と対戦相手に自らの口で救いを求める行為に等しい。

裏生徒会副会長であり、廃校舎棟プロレスの象徴的存在のロゼがデビュー3戦目の1年生に許しを請うことなどということができるはずがない。


結局ロゼは涙を流しながら失神させられてしまった。



実線のデータが全くない水月にダウンをとられたことは、みほろと戦った時と同等、いや、それ以上にロゼを焦らせる。


(立ち上がって…反撃しないとっ……)


まだ脳震盪による眩暈と吐き気が収まっていない状態で、ロゼは根性で立ち上がった。




再び立ちの状態で向かい合って試合再開。

ここで水月は右手を挙げて手四つを要求する。


「…なに?……私に力で勝てると思ってんの?」


「さっきの打撃戦はあたしが勝ちましたよ?」


「は?なに勘違いしてんの?最後たまたまアンタのラリアットが入ったけど、あんなのは偶然だから。」


そう。ロープに振るまでの打撃戦そのものはロゼが制していた。

ロゼのエルボーや膝蹴りに、途中から水月は打ち返せなくなっていた。

しかし、ラリアットでダウンし、2カウントとられてしまったのも事実。


「ふーん、なんか先輩、デビュー戦のあたし相手に必死ですね、廃校舎棟プロレスの女王なのに。…あ、“元”女王でしたね。」


「っ……!!ッ後悔させてあげる…!」


水月の挑発に乗ってしまい、手四つに応じるロゼ。

とはいえ、純粋な力はロゼの方が上。

むしろ、みほろに敗北したとはいえ、未だに廃校舎棟プロレス最強の実力を誇るロゼを挑発してしまった水月は自ら負けに行っているような物。


「1年の子、ロゼさんに対して手四つとか、自殺行為じゃね?」

「流石にさっきのラリアットで調子乗っちゃってんのか?」

「ロゼ様ー!いけぇえ!」


このまま水月の体はエルボーの打ち合いの時同様、ロープ際まで押し込まれてしまうに思われた。


しかし、


水月の体はロゼの力を真っ向から受け止め、その場でしっかりと留まった!


「なっ!?」


これには流石のロゼも驚きを隠せない。


「……どう、したんですかっ?……っ……先輩の力って、こんな…もんなんですか?」


「ぅくっ……っこのぉ!!」


ロゼは力を入れ直すが、水月をそれ以上に押し込むことができない。

それどころか……


「…なんか、ロゼ先輩押されてない?」

「マジ?うそでしょ?」

「1年の子に力でも負けちゃうの?」


水月に押され、ロゼの腰がじわじわと反っていく。


(ンンっ…!っ……力、強い…。…っどうして……)


そう。本来ならロゼが水月に力負けすることはまずあり得ない。

しかし、今のロゼは水月のラリアットで脳震盪を起こした状態にあった。


通常に比べて上手く力が入らず、眩暈や吐き気もある為、体の踏ん張りも効かない。

普段はレスリング部のマネージャーをしている水月。

頭部の接触が多く、脳震盪が起こりやすいレスリング部で、水月は幾度となく応急手当を行ってきた。

その中で、脳が揺れてしまった選手の状態をある程度なら判断できるようになっていた。


ラリアット後、すぐに立ち上がることができず、立ち上がってからも足元がふらついていたロゼを見た水月は、ロゼが脳震盪を起こしていることを把握し、その上で力比べを挑んでいた。


全ては水月の計算された行動。


しかし、それを知らない観客には、水月がロゼに力比べで勝っているというありのままの状態が映っている。

そしてそれは、観客だけではなく戦っているロゼにも…。


(…なんで…?なんでこの私が負けてるの?……また…………)


格下に力負けしたという意識が、手鞠みほろに敗北した嫌な記憶を再び呼び起こす。


(嫌………。嫌……。)


「いやぁああああああああ!」


半分悲鳴に近い雄叫びを上げたロゼは、水月に倒される寸前頭を後ろに倒して反動をつけると、水月のおでこ目掛けてヘッドバットを打ち込んだ!


ガツッ!!!!


硬い骨と骨がぶつかる音が会場に響く。


「いぎゃぁ!!」


突然頭部に走った激痛に痛々しい悲鳴を上げてリングに倒れる水月。


ふいに頭部に打撃を食らった水月はなかなか立ち上がれない。

ロゼは、ふらつく体を何とか起き上がらせ、水月の方へ向かうと、ボディシザースで水月の腹部を絞め上げる。


ここまで余りにも望まない状況が続いたロゼだが、ようやく掴んだグラウンドの展開。

このボディシザースでなんとか逆転したい。


ありったけの力を両足に入れて絞める。


「んぐっ……ぁ、ぁぁあっ!!」


いくらダメージを負っているとはいえ、廃校舎棟プロレス無敗女王として君臨し続けたロゼのボディシザースはかなり強力。

まだヘッドバッドの痛みから完全に立ち直り切れていない水月の喉から、無理矢理絞り出されるような悲鳴が漏れ出す。


「…ッギブアップ、しなさいよ!」


必死の形相でギブアップを促すロゼだが、水月は歯をぐっと食いしばって大きく首を横に振る。

ロゼの絞め技はデビュー戦の水月にとても耐えられるようなものではないが、何とか体勢を変えながらロープに手を伸ばす。


圧倒的格上のロゼの技にも諦めず、勝ちへの道を見出そうとする水月の姿に、観客からもちらほらとエールが飛ぶ。


「頑張って!!水月ちゃん!」

「もう少し!あと少しでロープだ!」

「頑張れー!」


応援の声にこたえるように、水月は少しずつロープに近づく。

そして、


「ろ、ロープ!!!」


水月の手がロープを掴んだ!


まさか自慢の絞め技で勝負を決めることができないと思っていなかったロゼは、悔しさ以上に驚き、唖然の表情を浮かべる。


ただ、このまま水月を休ませ体力を回復させるわけにはいかない。

ロゼは脳震盪で力がうまく入らない体に鞭打って立ち上がると、水月の髪の毛を引っ張って無理矢理起こすと、後ろから脇に腕を通す。


「これで、沈めっ!!」


「……っ!?」


ここでロゼのドラゴンスープレックスが炸裂!


水月の体がリングに激しく打ち付けられ、ズガァアン!と大きな音を響かせる!


「ああああああああん!」


たまらず悲鳴を上げる水月。


普段は普通の女子高生である廃校舎棟プロレスのレスラーたちは、スープレックスの様なプロレスらしい派手な大技を使えない者がほとんど。

それだけに、このロゼの一撃に、会場も盛り上がる。


「フォール!!」


そしてブリッジしたままフォールカウントへ。


1…

2……


スッ……


カウント2.9でギリギリ肩を上げ、敗北を免れた水月。

しかし、ロゼの大技の前に確実に追い込まれている。


(くっ…決めたと思ったのに。)


仕方がなくブリッジを解くロゼだが、すぐさま水月に覆いかぶさり、再びフォールの体勢。


1…

2……


「いやああああ!」


叫びながらカウント2でフォールを返す水月だが、デビュー戦でロゼを相手に戦っているがゆえに、フォールを大きく返せない。


そしてまたロゼは水月に体重をかけるとカウントを要求。


「フォールっ!!」


ここまで戦い続けてきた水月にとって、この連続フォールはかなりきつい。


1……


必死に肩を浮かそうとするが、ロゼがしっかり押さえ込んでおり、まるで肩があがらない。


(ああっ!ふぉーる、返せないっ…!?)


試合序盤はロゼを追い詰めた場面もあったが、やはりデビュー戦の水月ではロゼに勝つことは難しかった。

会場全体にこのまま試合が決まりロゼ勝利のムードが流れる。


2……


レフリーがマットを叩き、2カウント目が数えられる。


そんな中、水月の目は死んでいなかった。

フォールを返せないならと、水月は下からロゼの顔面にエルボーを叩き込んだ!


ガッ!!


「ああっ!!」


水月からの予期せぬ反撃にたまらずのけ反ってしまい、フォールを解いてしまうロゼ。

カウント2.5。


首の皮1枚つながった水月は、ロゼに組み付いて押し倒すと、今度は水月が上の体勢!

ハンマーチョークの要領で、右の前腕でロゼの喉を押しつぶす!


「先輩、今度は、あたしの番ですっ!」


ゴフっ!


「ぎえっ!!」


潰れた蛙の様な、汚い声を上げて苦しむロゼ。

しかし、当然ロゼも黙ってはいない。水月の髪を掴むと、腰を上げてブリッジし、上に乗っている水月を落として再び上のポジションをとる。


デビュー戦の水月と序盤に食らったラリアットのダメージを引きずるロゼ。

体を密着させ、リング上をゴロゴロと転がりながらポジションを取り合う。


体力的には対等に見える両者だが、心理的に追い詰められていたのはロゼの方だった。


(なに!?この娘の体力。なんでまだ耐えれんのよ?)


ロゼが試合序盤に感じた水月に対する僅かな脅威。それは水月のタフネスだった。

ラリアットを食らう前の100%の状態のロゼのエルボーを連続で撃たれても立ち続けていた水月。

普段廃校舎棟プロレスのリングに立つほかのレスラーでもダウンせずにいるのは難しい。


実戦経験のない水月がそれをできるなら、それは紛れもない水月のポテンシャル。


(この娘の体力はいったいどこまで持つの…)


体力的限界を感じ始めているロゼにとって、相手のスタミナがどの程度残っているかが分からないというのはかなりの不安要素だった。


(もしもまだ相手にスタミナが残っているとしたら、リング上でゴロゴロと転がってポジションを取り合ってても、こっちが先にへばってしまう。それならもう一回投げ技でリングに叩きつけてこの娘の動きを止めて、その隙にフォールするしかない!)


そう考えたロゼは立ち上がり、水月と距離をとる。

脳が揺れていたことによるふらつきも軽くなり、さっきまでよりも足に力が入る感覚がある。


(よし、もし投げるなら、今しかない…!)


ロゼはまだリング上に座っている水月の髪を掴んで立ち上がらせると、左腕を水月の首に回し、右手で水月の股間を掴んで、ブレーンバスターを狙う。


しかし、


「さ…させませんよ!」


なんと水月もロゼの首と股間に手を回す。

お互いにブレーンバスターを仕掛ける同じ体勢になった!


「はあ、はあ…デビュー戦の…あんたに……っ投げられるわけ、ないでしょ」


「はあ…はあ…先輩……息、上がっちゃってるじゃないですか。」


「っそれは………あんたも…でしょ」


しばらく組み合った状態で制止する二人。

数秒の沈黙の後、先に仕掛けたのはロゼだった。


「フっ!!」


短く息を吐き、力を入れる。


「あああああああ!!」


しかし、水月は踏ん張って投げられることなくその場で耐える!!


「…!?!!」


そして今度は水月が力を入れる。


「はあああああああああああ!!!」


水月がロゼの股間を強く握りしめ、勢いよく上体を起こすとロゼの体が宙に浮く。


「いや!!いやああああああ!!!!」


これまで女王として上げたことのない女性らしい悲鳴を上げてしまうロゼ。

そしてものすごい勢いでリングに叩きつけられた。


ズガアアアンっ!!!


「あぐっ!!」


これには会場から割れんばかりの歓声が上がる。


「すげえ!!あの子デビュー戦だよな!」

「ロゼ先輩と同じ技をかけあって勝っちゃった!!?」

「やば、俺ロゼ様から乗り換えてファンになるかも。かわいいし。」


「あれ?」


そして客席のある方向から別の声が上がり始める。


「ちょっと待って、あれ…ヤバくね?」

「え、ちょっと、ロゼ様の水着が…」

「おいおいおい、うそだろ!?」


なんと、ロゼの水着の右側の肩ひもが、ちぎれてしまっていたのだ!


チャンピオンズトーナメント後の4連戦、そして今のブレーンバスターでロゼの水着に大きく負荷がかかったことで起きたアクシデント。


しかし、ロゼは倒れたまま動けず、ちぎれた個所を結ぶことができない。


水月は立ち上がると肩で息をしながらロゼを見下ろす。


「はあ、はあ……はあ…。先…輩……、投げましたよ、あたし…。…はあ、はあ……どうしたんですか…?……立てないんですか…?」


その言葉に、言い返すことも、立ち上がることもできず、ただ肩で息をするだけのロゼ。


「はあ、はあ……じゃあ、これで決めますっ!」


そう言うと水月は倒れているロゼのふくらはぎを踏んで両手首をつかみロゼの首の前でクロスさせるようにして後ろに反らし上げる。


クロスアーム式のカベルナリアが決まった!

これはロゼがみほろに失神敗北を喫した技。

それをまだデビュー戦の水月に完璧な形で決められてしまった。


そして当然、水着のちぎれた個所が垂れ下がり、ロゼの綺麗な右乳が露わになる。



「あっ……っ!………っ!」


四肢は水月に捕らえられ、動くことも完全に露わになった胸も隠すことができない。


(……苦しい……こんな新人に、私、また…)


ロゼの目から涙がこぼれだす。


水月はまだデビュー戦。それだけに、みほろの時以上に屈辱感が湧いてくる。


「せん、ぱい…ギブしてくださいよっ!」


今この苦しみから逃れるには、水月の言うように「ギブアップ」を口にするしかない。

みほろと戦った時は女王としてのプライドがそれを許さず、どうしてもそれができなかった。


しかし、デビュー戦の1年生にここまで攻め込まれ、もはやプライドも尊厳も失ったロゼにはこの苦しみから逃れたいその一心しかなかった。




「……ぎぶ…………あっ……ぷ」




そしてついに、ロゼの口からこぼれだすようにその言葉が漏れ出した。



カンカンカー――ン!!!!


「ギブアップ」


ロゼの口から初めて発されたその言葉に一瞬の沈黙の後、ゴングが乱打される。会場から悲鳴にも似た大歓声が上がる。


そしてデビュー戦でロゼに勝利するという大金星を挙げた水月は後ろに倒れ、大の字に寝転がると感極まって顔を覆い隠す!


一方のロゼは屈辱的敗北にうずくまって涙を流すのみだった。



おわり(仮)



【小説】廃校舎棟プロレス~敗北の女王、雅楽川ロゼ転落~ 【小説】廃校舎棟プロレス~敗北の女王、雅楽川ロゼ転落~

Comments

good

goaqjrj456

彼女の敗北は非常に望ましい。

まつだ


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